アマゾンの堆積盆地

 in "The Amazon, Limnology and landscape ecology of mighty tropical river and basin". H.Sioli(ed.) 1984 (地質学的な発達史の部分和訳。)


地質の概略

 基盤岩 35億年前から6億年前の年代を持つ、結晶質岩石。(花崗岩類と変成岩)
 ギアナ盾状地と中央ブラジル盾状地の間に発達した堆積盆地。
 この2つの盾状地は、アマゾンの堆積盆地をはさんで連続していることがボーリングで確認

 3500kmの長さ、300kmから1000kmの幅
 3つのアーチによって、堆積盆地が区切られる・・・堆積相が異なる。
 堆積盆地のカンブリア紀以降の沈降量は4000mあるいはそれ以上に達する。

 大西洋中央海嶺の断裂帯と連続する方向性、グラーベンの特徴がある。(…マントル対流などの関与)
 グルパ・アーチ東側は2000mの落差で、白亜紀初期に大西洋が開いたときのリフトに面している。
 白亜紀と第三紀の海は古大西洋が南西方向から侵入したものである。

 堆積盆地を作る堆積物 …もっとも古いのはおそらくカンブリア紀のもの(5億年前)(シルル紀=4億年前から確実。)

古生代の堆積物:

 アンデスの地向斜の海を越えて、東または南東方向に向かって侵入してきた、浅い海の堆積物。
 一部はパラナ堆積盆地を通過。

 三畳紀、ジュラ紀、白亜紀初期の堆積物は欠如。その時代は削剥の場だった。(不整合の存在?)

 白亜紀から第三紀にかけて、厚い大陸性の堆積物が堆積。この際に、玄武岩質のマグマが活動。延長100kmを越える岩脈や、無数のシル(岩床)が地層中に貫入した。

 第三紀中新世以前のイキトス・アーチ西側は、太平洋側のアンデス地向斜方向への河川流の支配する地域だった。分水嶺となったのは、マデイラ川のポルト・ヴェロの大滝のあたり。そのため、いまでもペルー東部やマデイラ川に、太平洋由来のイルカや魚などの生物が分布する。

 第三紀中新世末期に、エクアドルのアンデスの隆起・上昇により、これらの地域の河川は出口を失い、アマゾン上流域の堆積盆地を流れる河川は、現在の東方向に向きを変えさせられることになった。

 地層は全体として褶曲や変成作用を受けておらず、断層構造だけが発達。断層の走向は堆積盆地の外縁境界とほぼ並行に発達し、古生代の地層は1度から3度というゆるい傾斜で、堆積盆地の中心方向に傾いている。ペルム紀の数百mの厚みを持つ蒸発岩の地層は、岩塩ドームなどの構造を作っていない。

層序

 先駆者の業績
 RADAM掘削計画・・・150本以上の深部ボーリング
 これによって多くの新事実が発見される

 露頭は川の蛇行のバンク部分が多い。

 アマゾンの現在の河谷は、いくつもの独立した河川流が、鮮新世以降に結びついて構成されている。エクアドルのアンデスの隆起により、太平洋への流れが閉ざされると、アマゾン上流部の河川は大西洋側へ流れを変えるとともに、堆積物によってアマゾンの盆地を埋め立てた。

 アマゾン上流盆地…プルス・アーチの西から、コロンビア、エクアドル、ペルーのアンデス山脈のふもとまで。アクレ盆地を含む。

 アマゾン中流盆地…プルス・アーチからグルパ・アーチの間。マナウスからジング川河口まで。地質構造はグラーベンが特徴的。

 アマゾン下流盆地…グルパ・アーチの東。アマゾンの河口地域。

*古生代

 カンブリア紀の存在・・・確定ではない。岩相から。西経58度から63度の領域で、最下層に分布。

 オルドヴィス系と思われる地層、アクタス・ミリム部層。16のボーリング地点で確認。白色砂岩と石英砂岩、シルト岩、頁岩をはさむ。海岸あるいは浅海の堆積物。その上位に厚い砂岩と緑色・灰色頁岩(ナムンダ部層)があり、氾濫源堆積物、あるいは周氷河氾濫原堆積物と推定されている。

シルル紀

 化石で確認。トロンベタス累層、アマゾン堆積盆地の北縁に沿って、西経51度から62度にかけて露出。南縁では中流盆地の西経52度から54度で露出。シルル紀の海は、南西のチチカカ湖方向から侵入。800mの層厚の海成層、細粒砂岩、頁岩、シルト岩、動物化石が豊富。ランドベリー世前期。シルル紀末に海退。

デボン紀

 シルル系を不整合に覆う。海成層。アマゾン河谷の南北両縁に露出。化石豊富。三葉虫、腕足類、二枚貝、巻貝など。
 化石動物相の変遷で細分。

 デボン紀前期のマエクル累層。北縁では基底レキ岩がみられる(不整合)。アンデス地向斜から侵入した海の堆積物。厚さ400mの大半はクリアーな見かけの砂岩からなり、粘土質の薄い層をはさむ。

 デボン紀中期のエレーレ累層、細粒砂岩に頁岩をはさむ岩相が主。三葉虫、腕足類、ウミユリ、巻貝、微化石が豊富。堆積物は南方の後背地から供給されている。

 デボン紀後期のクルア累層、海はプルス・アーチを越えてアマゾン中流堆積盆地に侵入し、さらにグルパ・アーチを越えて下流堆積盆地にも侵入。下部では化石豊富、上部は氷河性堆積物。最上部は淡水成の可能性がありで植物化石を産出する。タスマニテス、スピロフィトンなど。

石炭紀

 石炭紀とペルム紀の地層は中流の堆積盆地では3000mに達するが、プルス・アーチの上流側では800mしかない。石炭紀前期のファロ累層は砂岩と頁岩が主体。海岸に近いところで堆積。粘土質の岩相は北方で増加。以前はデボン系と考えられていたが、石炭紀前期と判明。中流盆地では西経54度から59度の地下にのみ存在。ボーリングによって確認。

 石炭紀後期の地層は中流盆地の南北両側に、西経51度から72度まで広く帯状に露出。プルス・アーチを越えて、アンデス地向斜から海水が侵入。300mの厚みの緑灰色砂岩を主とするモンテ・アレグレ累層は、それ以前の地層をわずかな傾斜不整合で覆う。基底部はレキ岩があり、上方ほど細粒化、石灰質頁岩をはさむ。
 砂岩にプロダクタス、頁岩にはリンギュラなどの腕足類、魚の鱗が産出し、その他にコケムシ、コノドントなどの化石が石灰質砂岩から産出。上部に向けて粘土質になり、440mの厚さに達するイタイツバ累層では、細粒砂岩、頁岩、ドロマイト、石灰岩の中に、三葉虫、ウニ、腕足類、コケムシ、二枚貝及び巻貝などの化石を含む。ペトリは膨大な有孔虫化石を研究。これらの海生動物化石相は、ペルーのタルマ累層に非常に類似しており、この石炭紀後期の海が中央ペルー方向から侵入したものであることを示していると考えられる。

ペルム紀

 1200mに達する厚さの砕屑性堆積物及び化学沈殿堆積物からなる、ノバ・オリンダ累層が発達している。(この中には石炭紀後期の地層も含まれていた。)これらの地層は蒸発岩の組み合わせを示しており、熱帯の気候で内陸に閉じこめられた海が干上がるプロセスを示している。その盆地は西経54度のサンタレムから西経60度を越えて、ボルバの西に達する広がりがあった。蒸発岩形成の開始時期には議論があり、石炭紀後期のステファン世からとする考えと、ペルム紀に入ってからとする考えがある。

 ノバ・オリンダ累層は細粒砂岩と頁岩を主とする砕屑岩から始まり、上部は蒸発岩である硬石膏、石膏、岩塩が主体となる。化石動物相も海生生物は上部にいくに従って乏しくなり、高塩分濃度に適応した種が優勢となる。アマゾン中流堆積盆地では、蒸発岩の層序に、チャート、雲母質および石灰質の砂岩、瀝青質の粘土層が堆積しており(アンディラ累層)、盆地の中への堆積物の流入が継続していたことがわかる。
 同様の地層はアマゾン上流堆積盆地のボーリングでも見いだされる。

*中生代

 ペルム紀以降、白亜紀前期まで、化石で確認できる確実な堆積物は発見されていない。この時期は南半球ではゴンドワナ大陸が分裂する時期にあたっており、大西洋が生まれ、玄武岩質の火山活動が南アメリカと南アフリカの盾状地に起こった時代でもある。

 アマゾン地域でも、白亜紀以前の地層中に、玄武岩質(輝緑岩=diabase)のシル(岩床)や熔岩、高角の岩脈が広がっている。これらの火山噴出物は、地質時代で最大の広がりを持って分布している。大規模な輝緑岩のシートは西経51度から70度に分布し、シルと熔岩層は300mの厚み、100km以上の延長を持つと考えられる。岩脈は主に北北東−南南西に延びており、幅150-200m、延長100kmに達する。岩脈は古生代のシルル紀・デボン紀層で多く、後期古生代の地層では少なくなる。(上部ではマグマの貫入形式が、岩脈からシルなど水平方向に変化している)

 これらの火成岩の放射年代は2億9300万年から1億2000万年の幅を持つが、多くは白亜紀前期の期間に集中している。ノバ・オリンダ累層の粘土質の地層はシル(玄武岩質マグマの貫入)に対して弱く、ここに多くのシルが発達している。

白亜紀

 白亜紀を通じて、大西洋の開裂と大西洋中央海嶺の形成、アメリカ大陸の西側への移動が起こり、白亜紀初期にはネバダ造山運動、白亜紀末期にはララミー造山運動が地向斜地帯内部で起きた。このことはアマゾン堆積盆地にも影響を及ぼし、盆地の東部であるアマゾン下流盆地では、海水は大西洋のできた方向に向かって引いていった。この際にグルパ・アーチが突出することとなり、その東側斜面に沿って、リモイエロ・グラーベンには1500mもの厚さで粗粒のレキ岩が堆積した。この時代は白亜紀前期(アルビアン)と考えられ、白亜紀を通じて大西洋の海水がこの沈降地域に侵入し続け、マーストリヒト世には、「マラジョ海成層」が堆積した。

 一方、堆積盆地主部(中流盆地)では大陸性の堆積作用が始まり、おそらく第三紀まで継続した。アルター・ド・チャオ累層は砂質粘土、砂をはさむ赤色シルト岩からなり、600mの厚み、氾濫源湿地堆積物起源の固結度の低い砕屑物である。これら堆積物の細粒部分には、アンデス起源の火山灰がかなりの割合を占める。デーモン(1975)はアルビアン世(オーブ世)中部、セノマニアン世、チューロニアン世を識別し、それ以前にはプライス(1960)がノバ・オリンダのボーリング孔から、爬虫類の歯を発見し、白亜紀のものと識別した。白亜紀後期の植物化石が盆地北縁のエレーレとモンテ・アレグレの丘で発見されていて、それを含む砂質の岩相はイタウアプリ層と呼ばれている。その他のアルター・ド・チャオ累層の構成要素としては、砕屑性で固結度の低い地層として、パイツナ累層とマナウス層が知られており、これらは古くはバレイラス累層として第三系と位置づけられていた。

 アマゾン上流堆積盆地は、太平洋側の地向斜から伸びた、大きな湾として堆積が進行した。太平洋が「グアヤキルのゲート」を通って東に侵入し、海成層が堆積した。白亜紀の海成層はレキ岩と赤色砂岩からなるモア累層(ネオコミアンからアプチアン)に始まり、リオ・アズル累層(アルビアンからコニアシアン)の頁岩、瀝青質頁岩、細粒砂岩、石灰岩に覆われ、同様の岩相であるディビソル累層(カンパニアンからサントニアン)に続く。アクレの白亜紀最上部の地層は、頁岩と石膏の地層からなるリオ・アクレ累層(マーストリヒティアン)である。これらの地層は、エクアドル東部とペルーの白亜系と対比されている。(共通性がある。)

*新生代

第三紀

 アマゾンの堆積盆地は第三系の分布域として世界でも有数の規模を持っている。しかし、第三系の層序や堆積相については、残念ながらいまだに系統的な研究がなされていない。第三系と第四系の地層は、中生代から先カンブリア代のそれ以前の地層に対し、わずかな傾斜の不整合で接している。ボーリングの結果では、1000m以上もの厚みで、砂質から粘土質の岩相が、基底部ではレキ岩をはさみつつ、積み重なっていることが観察される。これらは河川成および湿地成の堆積物であり、それぞれの地域名で呼ばれている。

 アマゾン下流盆地のマラジョでは、例外的に第三系の下部にラグーンと海岸の沼地で堆積した地層が見られる。中新世のこの地層には、サンゴやコケムシ、造礁性の有孔虫などの豊富な化石動物相がみられる。パラの海岸に分布するピラバス累層は、20m-30mの海成の石灰岩に、砂や粘土をはさみ、 巻貝や二枚貝、有孔虫の化石を含む、中新世中期の堆積物である。マラジョ島のクルルでのボーリングによる第三系の厚みは2850mに達し、永続的な盆地の沈降を示している。

 アマゾン中流盆地と上流盆地の、砂と粘土からなる、始新世〜漸新世〜中新世と考えられる第三系の地層全体は、ソリモエス累層と命名されている。おそらく(白亜系とされている)アルター・ド・チャオ累層の最上部の粘土は、第三系のソリモエス累層と同時期のものであり得ると考えられる。

 アマゾン上流盆地の河川系は、第三紀を通じて太平洋方向に流れており、それは中新世まで継続した。アンデス山脈の隆起によって地形の逆転が起こると、巨大な、湿地と湖とそれにそそぐ河川の地域が出現した。

 アクレ盆地とペルーの前縁地域に分布する砂質頁岩、砂岩と石灰岩の地層は、第三紀前半の地層と考えられていた。その最下部の500mは、クルゼイロ累層と呼ばれ、上位の地層はリオ・ブランコ累層と呼ばれる。現在では、両者はペルー東部の第三紀前半の大陸的なコンタマナ層群に対比されている。コンタマナ層群には海成層が1枚はさまれており、始新世後期の赤色層であるポゾ累層がそれである。

 アマゾン上流盆地のエクアドル領地域では、600mのレキ岩と粗粒砂岩の地層である、チユヤク累層が見いだされ、それらは山脈の隆起にともなって供給された砕屑物を表している。ここでも高い位置に海成層のはさみの存在が知られている。チユヤク累層の上位には、漸新世の石膏を含む砂岩のチャルカナ累層があり、さらにその上位に2000mに達するアラユノ、キュラレイ、チャンビラ累層が重なっている。アラユノ累層とキュラレイ累層は海成から汽水域の堆積物であるが、チャンビラ累層は分厚い粗粒のレキで構成された、扇状地堆積物を特徴とする。キュラレイ累層とチャンビラ累層は中新世から鮮新世の堆積物であるとされる。

 ブラジルとペルーの国境地域では、鮮新世を通して灰色の粘土と褐炭が、河川と湖沼の環境で堆積した。これらはペバス層あるいはイキトス層と呼ばれ、エクアドル東部のメサ累層と対比されうる。  アマゾン中流盆地では、盆地を横切る粘土でできた高まりが観察されるが、これらのベルテッラ粘土層は、鮮新世から更新世の変化の際にできた、巨大な内陸盆地の堆積物である。この時期は氷期の約200万年前のカラブリア海退期にあたり、海退によってアマゾン盆地は巨大な湖になり、そこで粘土が堆積した。

第四紀

 マラジョ島では、アマゾン・コーン(海底扇状地を含む河口堆積層)は更新世のピラクル累層(粘土とシルトを主体)と完新世のトゥクナレ累層(砂が主)に分けられる。これらはともに約2000mに達する層厚を持つ。更新世には、氷河性海面変動によって陸域が相対的に上昇すると、そこは激しい浸食の場になった。氷期に海面が低下する一方、間氷期には短期間で海水面が上昇し、それによってアマゾンによる堆積作用は復活する。そこでアマゾン盆地全体としては、湖沼形成と堆積の時期がある一方、局地的には侵食が起こるという構造ができた。高度180mから30mのところに、数種類の河岸段丘が発達していることと、第四紀の周期的な海面変動との関係が明らかにされている。4回の海退が識別され、もっとも古いものは北半球のリス氷期に相当する。(海進期には)高海面のために出口をせき止められた水が盆地内にあふれ、巨大な湖が出現した。最後の高海面期は後氷期に急速に進行した。その上昇率は堆積速度を上回り、10000年前から8000年前にかけて、アマゾン河口の水が停滞して、巨大な湖が存在した。このフランドル海進期の結果、氾濫源からの高度5m-10mの、もっとも若い河岸段丘面がつくられた。この段丘面は、テラ・フィルメと呼ばれる高水面期にも水をかぶらない地域の先端部をなしている。(毎年の高水面期に水をかぶる地域は、ヴァルゼアと呼ばれる)

 アマゾン・コーンは河口から始まり、大陸の高まりの上に載って、延長680km、幅250kmに達する。その地層は細粒物質を主体として、厚さは11000mを越える。アマゾン・コーンの形成は、鮮新世の、アマゾン上流盆地と中流盆地の結合直後に始まっている。コーンには海底谷が形成されている。海底地質調査の結果、アマゾン・コーン北縁の大陸棚に、未固結の生物源石灰質堆積物が発見された。これらはコケムシや石灰藻、貝類の破片、Mg方解石のウーライトなどからなり、形成時は現在よりも100mほど海面が低く、浅海であった環境を示している。ウーライトの形成は21000年前から16000年前であり、第四氷期のウルムII氷期に相当する。しかし、これらは十万年以上前の最終氷期前の間氷期に形成されたとする意見もある。


 2001.2.6 萩谷 宏

石からわかること

地球史

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