96/8/5-7に行われた、藤沢市科学少年団の夏期研修旅行(いわき市周辺)に同行した際に、最終日のあぶくま洞への車中で講義した内容をメモにしました。


1)地球は層構造を持っている・・ちょうどゆで卵に似ている

  黄身:核  白身:マントル  殻:地殻

  根本法則は、密度(比重)の小さいものほど外側(上側)になる。

  (密度というのは、同じ大きさで比べたときにどっちが重いか、ということ)

  例えば、

  核は金属鉄、マントルは石でできている。地殻のかこう岩などは比較的軽い石。

  きちんと、重いものから軽いものの順番になっている。

  良く考えると、海水も、大気も、軽いものほど上に積み重なっている。

  水より空気の方が軽いから、水の中でぶくぶくっと泡を出すと、浮かぶでしょう?。泡が沈んで底にたまっていくことはないよね。

2)降った雨は地下のどこまでしみこむか

  大雨が降ると、雨水の流れが土砂を運び海へ持って行くんだという話は昨日やったね。でも、雨水は表面を流れるだけじゃなくて、地下にしみこむ分もあるね。地下の、一体どこまで水はしみこんで行くんだろう?

  地球の中心まで? マグマのあるところまで? 

  マグマの中に水が流れ込んだら、沸騰して爆発しちゃいそうだね。

  ”しみこむ”とは、岩石中のすき間を埋める空気を追い出して、水がすき間の下側にたまること。

  すき間の空間がなければ、水はしみこまずに、重い岩石の上にたまる。

  (ちょうど、海が海洋地殻という岩石の底を持っていて、その上に海水がたまっているように。)

  だから井戸なんて、地下のすき間のない、水を通さない地層の上にたまった水をくみあげているわけなんだね。

  石を押しのけてまで、水が地下にしみこむことはない。

  (余談:初期地球で溶けた金属鉄が地球の中心まで沈んだ可能性)

3)石灰岩とかこう岩

  これから行くあぶくま洞という鍾乳洞は、石灰岩という岩石に空洞ができて、鍾乳石が中にたくさんできたものだ。

  石灰岩は、熱帯や亜熱帯の珊瑚礁がつくったものだと思っていい。(9割)

  秋芳洞とか、有名な鍾乳洞が日本にはいくつもあるけど、そういうところの石灰岩を調べると、珊瑚とか、二枚貝とか、絶滅したものも含めて、石灰質の殻や骨格を持つ生物の化石がたくさん出てくる。そういうものが集まって石灰岩ができたわけだ。だから、どこか遠い南の海でできた珊瑚礁のかたまりが、地層の中にはさまれて、いま地表に露出しているわけだね。

  なんで熱帯の、赤道付近でできた化石珊瑚礁=石灰岩のかたまりが、現在のような位置にあるのだろう。

  地球の表面は、プレートと呼ばれる大きな単位で、年間数cmというゆっくりした速度で動いている。日本付近は、3億年くらい前からずっと、そのプレートが地球内部に沈み込んで戻っていく場にあるわけだ。

  いまの太平洋をみれば、火山島やその上に発達した珊瑚礁の島、海山などがたくさんある。これらが沈み込むときに、陸からの砂や泥にはさまって引っかかってくっついたわけだ。ちょうど、エスカレーターの終点で、僕らをのせていた鉄板が次々と床の下に入っていくのだけど、その入り口に鉄のつめが並んでいて、鉄板の上に乗っていた紙屑がそこにひっかかって押しつけられていたりするじゃない。ああいうイメージなんだな。ああして、はるか南でできた珊瑚礁の石灰岩が、運ばれてきてはさまっている。

  一方、石灰岩のまわりは、宿舎のまわりもそうだけど、かこう岩でできている山々だ。かこう岩は昨日説明したように、深さ5kmとか10kmのところで700度くらいの温度を持っていたマグマの固まったものだ。

  阿武隈高地(山地)は、8割くらいがこのかこう岩で覆われているのだけれど、それらは白亜紀の前半、いまから1億2000万年前から1億年前頃にもこもこっと上昇してきたマグマが固まったものだね。

  かこう岩の中に、変成岩や古い地層が点々と残っていて、それは阿武隈の山々のできかたを教えてくれる、いろんな情報を持っているんだ。だいたい3億5000万年くらい前から、1億5000万年くらい前の時代にできた地層や岩石が、エスカレーターやベルトコンベアーみたいに運ばれてきて、陸地に押しつけられてたまっているわけだ。(時代的に2種類以上ある)その後で、かこう岩のマグマが上昇してきてそこらじゅうに入り込んだ。それが1億年くらい前。それで、運ばれてきた古い時代のものは多少とも加熱されて変成岩になったりしているわけだね。

  これから見るあぶくま洞の石灰岩も、かこう岩のマグマに焼かれて、とても大きな炭酸カルシウム(方解石)の結晶の塊になっていて、珊瑚礁だった頃の化石などは全滅してしまって、残ってないのだね。

  実は、かこう岩のできかたと、プレートの沈み込みという現象には関係があると思われている。マントルの深いところに、プレートの上部の海洋地殻や堆積物が海の水を持ち込むために、それがマグマをつくる原因になるらしいのだな。かこう岩のマグマにはかなりの量の水分子が含まれていたことがわかるんだ。そういう水は、太平洋のゴミを陸地に押しつけてきたエスカレーターの鉄板みたいなプレートが、地下深くもぐっていって、そこで放出するものらしい。

  だから、かこう岩がたくさん分布することと、遠くからいろんな時代の地層や岩石が運ばれてきて集まっていることとは、非常に関係が深いようなんだ。片方は浅いところでごしごしゴミを押しつけ、一方で深いとこからもこもこっとマグマが上がってくる。1億年くらい前にそういう事件の舞台だったところが、いま地表に露出して、我々が見ているわけだね。

  (余談:大陸の砂漠の砂→オルソクォーツァイト ・・もっと古い)

4)地質時代の長さ

  いま、3億5000万年とか1億年とか、そういう古い時代の話をしたけど、昨日の化石採集で、8000万年前の化石を君たちは採集したわけだね、それがどのくらいの長さかというと、ちょっと実感するのは難しいね。

  8000万年前にも我々の先祖は生きていたわけで、そこでその時間を実感するために、君たちのお父さんお母さん、おじいさんおばあさん、・・・という具合に、1m間隔で並んでもらったらどこまで続くか計算してみよう。

  年齢の差を平均で20歳として、父方か母方のどちらか一方をたどって、その両親を前に並べるとして、8000万年に400万世代、800万人の先祖が並ぶわけだ。この並んだ長さは800m8000kmにもなる。いわきから藤沢まで直線で200kmあると仮定すると、その40倍の長さだ。ずーっと行列になっていわき−藤沢間を20往復する勘定になる。もう、1往復したあたりでずいぶんけむくじゃらなご先祖様になっているかも知れないけど・・。

  これだけ長い時間が経過すると、プレートと呼ばれる地球表面のゆっくりした動きでも、とんでもない距離を動くことになるわけだね。

  年間5cmでも、1億年で5000kmも移動することになる。これだけの時間があれば、赤道直下でできた珊瑚礁の石灰岩が、いまの日本のあたりの緯度まで運ばれてきても不思議はない。

  (余談:活断層の活動周期と平均変位量の話、関東大震災)

5)鍾乳洞のできかた

  石灰岩が陸地に押しつけられ、はさまって、上に乗っている岩石が侵食されると、地表に露出するようになる。

  雨水は大気中の二酸化炭素を吸収して、やや酸性になっている。一方、石灰岩の成分である炭酸カルシウムはアルカリ性なので、雨水と中和反応がおきるわけだ。そうして、表面から少しずつ水に溶けて、運ばれることになる。

  (余談:最近の酸性雨の原因)

  さて、鍾乳洞はどうしてできるか、というと、基本的に石灰岩のひび、割れ目を雨水が通過するときに、少しずつ、少しずつ石灰岩を溶かし出して、すきまを広げ、空洞が大きくなっていく。これが鍾乳洞のできかただ。

  だから、鍾乳洞には必ず地下水の出口がある。川になって石灰分を溶かした水が流れ出ているわけだ。その石灰分は下流に流れ下って海に流れ込む。

  そこで、生物の殻をつくるのに使われたり、それがあらたな珊瑚礁の材料になる場合もあるわけだね。

  鍾乳石のできかた

  雨水が空洞の表面をつたって、天井のあるところから滴り落ちる

  →水が滞留すると、そこで蒸発したり、CO2が抜けたりして、石灰分が飽和

   して沈殿をつくる

  →沈殿の蓄積により、でっぱりができ、より水が集まりやすくなる

  →沈殿の成長・・鍾乳石の形成

  石灰分を含む水が滴り落ちる、床の場所にも石灰分の沈殿=石筍

  鍾乳石と石筍の上下からの成長・・最終的にはつながって石の柱をつくる

  あるひびに沿って水が滴下する・・・カーテンやひだ状になる

  全体としては石灰分は水に溶けて運び去られ、川を経由して海へ運ばれる

  だから、鍾乳洞は永遠ではなく、ある有限の期間しか存在できない。

  石灰岩体が地上に露出してすぐ→ひびから充分に溶出せず、空洞ができない

  地上に露出して長時間経過→溶け出しすぎて、空洞が崩落してしまうだろう

  ・・この中間のタイミングでのみ、鍾乳洞は観察できる。

6)まとめ

  地球の表面では、このように海でできたものが陸地をつくり、地表に露出して雨水でこわされ、溶かされて、川の水の成分や砂粒として運ばれて海にたまり、また地層をつくって陸地に露出し、それが削られて海に運ばれ、・・・という物質循環が支配している。

  昨日採集した化石を含む8000万年前の砂岩なんかも、当時の陸地から運ばれた砂が海でたまったものだし、それがいま陸上に露出して、また川で削られて海に運ばれつつあるわけだね。

  我々は、そのようなゆっくりした大きな物質と時間の流れの中の、ほんの一瞬に身をおいているわけだ。

96/08/08 萩谷 宏(KGH06345)


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