植物の上陸と大気組成の変化


 炭素循環を地球史で考えてみると…

 現在注目されている、二酸化炭素の放出と地球温暖化の問題は、根本的には 人類の産業活動に伴う化石燃料の消費により、それまで石炭・石油・天然ガス などとして地中に押し込んであった炭素を、生物・大気・海洋などの間での 炭素循環サイクルに加えてしまったことに原因があります。産業革命以降に、 大気に二酸化炭素として放出された炭素量は、現在の大気中の二酸化炭素総量と ほぼ同じ量に達しています。増加分の炭素の約2/3は海洋が吸収し、1/3 が大気にそのまま残って、大気中の二酸化炭素が250ppmから350ppm程度に増え ており、なお現在も増加中です。二酸化炭素濃度が上昇しているのは、 海洋への二酸化炭素の溶解速度よりも、人類の化石燃料消費の速度が速くて、 追いついていないことに本質があると考えられます。
 化石燃料は、過去の生物の遺骸がかたちを変えたものであり、 地質時代に生物が大気から除去して地層の中に押し込んでくれていた、大量の 炭素を、我々がいま大量に消費し、表層に戻していることになります。 いわば、貯蓄を食いつぶしているようなものです。
 しかし、化石燃料の材料として地層の中に炭素を押し込んでいた時代には、 逆のことがおこっていたのかもしれません。すなわち、 大気中の二酸化炭素濃度が消費され、酸素濃度が上昇することが考えられます。
 古生代石炭紀(約3億年前)頃や、中生代白亜紀(約1億年前)頃は、 それぞれ石炭と石油が集中的に形成された時代ですが、これらの時代の大気は、 炭素や酸素の安定同位体比から、かなり酸素濃度が高かったことが推定されています。 厳密にはいろいろ議論があるのですが、 酸素分圧がだいたい0.3気圧あるいはそれ以上に達していた(現在は0.21気圧)といわれています。

 植物の上陸は、化石記録から古生代カンブリア紀〜オルドビス紀頃(約5億年前) と考えられています。 古生代石炭紀のシダ植物の大森林は、現在の北米からヨーロッパにかけて広く分布し、 膨大な量の石炭層を形成し、大気組成に影響を与えたわけですが、 それは植物の上陸からわずか1億年後のことです。 植物の上陸はオゾン層の形成以後のことで、 それは大気中の酸素が1%程度になった時点と考えられていますから、 これはかなりのスピードです。なぜこんなに急速に大気中の酸素が増加したのでしょうか。

 ひとつ指摘できるのは、植物が陸上に上がり、陸上生態系を作ることの重要性です。 石炭層は海中生態系だけでは非常につくりにくいと考えられます。つまり、海草が石炭を作るのは難しい。 しかし、いったん上陸すると、セルロースで丈夫な体をつくり、 太陽光を得るためにより高く幹や枝を伸ばす方向へ進化していくので、 遺骸が地層に残りやすくなります。シダ植物の場合湿潤な条件を好みますので、 湿地で植物体が分解されず石炭になる機会も多いでしょう。そうして、 どんどん大気及び表層の炭素循環のサイクルから炭素を除去し、 地層の中に押し込んでいった。その結果として酸素の多い大気が実現された。 たぶん、酸素濃度の急速な増大は陸上動物の進化にも影響を与えたであろう。 シダ植物の大森林で知られる石炭紀後期は、陸上脊椎動物の進化の上でも鍵となる時代なのです。

 そうしてみると、オゾン層の形成により植物が陸上に進出することが可能となった時点で、 将棋倒し的に、酸素の多い大気形成と多様な陸上の生態系の発展が約束されていたのではないか。 そういう必然性があったのではないか、ということです。


デボン紀の植物化石(上)と腕足類化石(福島県)。 おそらく陸域に近い浅海に堆積したもの。


関連

・暗い太陽のパラドックス

・地球史上の氷河記録の話、→二酸化炭素濃度の変遷の推定(Kasting,1987など)

  (萩谷:niftyserve fkyoikus mes5【理科の部屋】#29262をもとに改変)



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