ストロマトライトが意味すること


 地層中のストロマトライトの出現は古く、オーストラリアの35億年前の最古の化石が発見された地層(Apex chert)でも、 ストロマトライトの構造が露出し、その付近からは数種類の微化石も見つかっていて、バクテリアマットの中で、 嫌気性と好気性の微生物が共存し、生態系を形成していた可能性が指摘されています。 文献を見る限り、32億年前の南アフリカの地層(Fig Tree formation)にも、立派なストロマトライトがあります。

 地球史の非常に早い時期から、おそらくシアノバクテリアがマットを作り、 浅い海底で生活していたであろうことをうかがわせます。

 よく誤解されていることですが、ストロマトライトは酸素を生産した本体ではありません。 ストロマトライトは一種の生痕化石であって、シアノバクテリアの生き方としては、 たぶんプランクトン的なものが量的に圧倒的に多かったはずだと考えられます。

 光合成産物の炭素がどこかに分離・保存されないと、有機物の分解で酸素が消費されるため、 トータルで見たときには、酸素が生産できないことになります。 石灰岩の一種であるストロマトライト中には、有機炭素はほとんどなく、すかすかです。 つまり、表面で生きていたシアノバクテリアのほとんどが分解されて、有機炭素としては蓄積されていないようです。

 それよりも、プランクトン的なものが海底に沈み、地層中に保存されれば、 その分の酸素が消費されず、大気・海洋中に残ることになります。 たとえば、グリーンランド・イスアの約38億年前の縞状鉄鉱層には、 最大で1.5%の有機炭素が含まれていることが知られています。このような堆積物の中に有機炭素を保存することで、 生産した酸素が二酸化炭素として再度消費されることを防ぎ、酸素の多い大気への道のりをたどることができるわけです。 (実際には、ここでは鉄イオンの酸化に消費されているわけですが)

 そういう視点からすると、ストロマトライトそのものは、酸素の生産にはほとんど役立っていません。 光合成の副産物として酸素を放出した、シアノバクテリアの活動を間接的に証拠づけるものとしての価値がある、 ということです。有力な状況証拠ですが、酸素を生産する主体的役割は果たしていません。


 2001.4.28 萩谷 宏 

初期地球

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