読者の方からの指摘で、ヨウ素の消滅核種−過剰キセノンの同位体を訂正しました。ご指摘感謝します。2008.3 萩谷
キャニオン・ディアブロ隕石*。→鉄隕石
Great Meteor Crater, Arizona, USA
地球の年齢は約45.5億年と言われていますが、これはどのようにして求められた値なのでしょう。
19世紀後半、イギリスのトムソン(=ケルビン卿)は、地球が火の玉状態から出発したと考えて、
現在の温度状態になるのか、熱伝導から計算して、地球の年齢はたかだか数千万年以内である、
という結論を出しました。
この考えに対して、当時の地質学者は、現在見られる地層の堆積速度から、その値は若すぎる、
もっと地球の歴史は古いはずだ、と反対したと言われます。
この時代は、放射壊変という現象がまだ知られておらず、地球内部の熱源を考えていなかったことに、
若すぎる地球の年齢を出してしまった原因があるようです。
放射年代測定法は、特定の核種(原子核)が放射壊変を起こすことを利用したものです。
核種によってその半減期には幅があり、また元素の性質によって測定の目的に対して向き不向きがあるので、
現在ではそれらの性質をうまく使い分けて、地質学的な事件に時間のスケールを入れることができます。
今世紀の初め、放射壊変が知られるようになって、比較的早い時期に岩石の年代を測る試みが開始されました。
最初はウランとヘリウムを用いた方法が主流でしたが、ヘリウムは逃げ出しやすい気体なので、年代が若く出てしまう傾向がありました。
第二次大戦後の質量分析計の発達と共に、ウラン−鉛法や、カリウム−アルゴン法、
ルビジウム−ストロンチウム法などの測定法がどんどん実用化され、普及していきました。そうして、各地の岩石の年代が測られて、
最古の岩石のレコードは2億年、5億年、10億年、20億年と更新されていき、
それによって推定される地球の年齢もどんどん古くなっていきました。
1960年頃には、南アフリカなど数ヶ所で、約30億年前の年代が求められ、それより地球の年齢が古そうだという理解が広まっていました。
ちょうどその頃、隕石の年代が測定され、これが45億年前後の、とてつもなく古い値を示すことが注目されつつありました。
キャニオン・ディアブロ隕石は1891年落下の鉄隕石ですが、この中のトロイライト(FeS)という鉱物から、
微量の鉛を抽出し、その同位体構成が調べられました。この隕石にはウランがほとんどまったく含まれておらず、
従ってウランから放射壊変によってつくられた鉛も含まれていないのです。
一方、地球上の鉛の鉱物は、地球上でウランからできた鉛と地球の最初からある鉛が混ぜられるために、
年代の若い(=最近できた)鉛鉱物ほど、ウランからつくられる鉛(質量数206と207の鉛)が多くなるのです。
鉱床のできた年代がわかっている、各地の鉱山の鉛を分析して、その放射壊変起源の鉛の増加割合を、
横軸を年代、縦軸を同位体比にしてプロットしてやります。すると、年代に応じてきれいな曲線にデータが並ぶのです。
そしてそのグラフの延長で、キャニオン・ディアブロの鉄隕石中のトロイライトから取り出した鉛のデータが、
その曲線のどの年代に相当するか見てみると、ちょうど約45億年に当てはまります。
206Pb/204Pb | 20+*←鉱床鉛の同位体比と形成年代 | ** ↓ ↓ | ** | * 10+ *←Isua(11.7/38億年前) | |-------------------------------(*)----←Canyon Diablo | の同位体比 +−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−−− 0 10 20 30 40 50 (億年前) (概念図…本当はもっとたくさんプロットがある。)
鉄隕石(ギベオン隕石)中のトロイライト。しずく状に含まれている。
詳しく知りたい方には:
「地球の歴史」竹内 均・都城秋穂著 NHKブックス19
Plate tectonics and crustal evolution (4th ed.) K. C. Condie, 1997 ...