ジャイアントインパクト仮説


 どのような状態で地球が生まれたのか、その起源については、古くから多くの考えがありました。太陽とともに火の玉として地球が誕生したとする考えから、第二次大戦後は、隕石や太陽大気の研究から、地球の材料物質が比較的低温で凝集したという考え方が主流になりました。さらに、理論計算によって、微惑星の衝突・合体による地球形成という、ダイナミックな地球形成のしくみが明らかになりました。

 太陽系の周りを回る、ガスやちりの円盤の内部で、固体物質が集まって直径十数kmの最初の微惑星が無数に誕生します。そして互いの重力で微惑星は衝突・合体して成長していきます。クレーターの研究によって、天体の衝突によって放出されるエネルギーの巨大さと、天体に与える影響の大きさがわかってきました。

 衝突による脱ガスで初期大気がつくられ、衝突の熱で表面が融けてマグマ・オーシャンという状態ができて、そこで二酸化炭素と水蒸気を主とする大気組成が安定になるとともに、高温状態で核とマントルの分離が急速に進行しました。

 微惑星の集積・成長が進むと、最終段階では、非常に大きく成長した原始惑星どうしが衝突することになります。そこでどのようなことが起きるか、1980年代後半から、計算機によるシミュレーション研究が進展しました。その成果のひとつが、月の起源に関するジャイアント・インパクト(巨大衝突)説です。ジャイアント・インパクト説というのは、地球形成の最後の段階で、地球の1/10ほどの質量を持つ天体が、斜めに衝突することで、地球のマントル部分をはじき飛ばし、放出された物質が地球を回る軌道で再集積して、月を形成するというものです。

 アポロ計画での月の調査は、月を構成する岩石の性質について、多くの情報をもたらしました。月の化学組成は、地球に非常によく似ていて、ただし揮発性元素が非常に乏しくなっているという特徴がわかってきました。ジャイアント・インパクト説は、月の岩石のこのような性質を、非常にうまく説明することができます。

 現在の地球の地軸が、公転面に対して23.4度傾いていて、そのために四季の変化が生まれているのも、地球史初期の、このような衝突の結果であると考えられます。


 2001.6.29 萩谷 宏

地球史

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