いわき化石見学旅行95・記録

 12/25、朝9時過ぎに出発。バス1台に生徒51名(中2−46名、高1−5名)
と引率3名。この旅行はY先生が89年に今の学校に勤務されるようになってか
ら、校長の許可を得て毎年実施しているもので、今年で7回目。僕も下見と本
番の引率のお手伝いなどで、いわきに行くのは10回以上になる。
 常磐道経由でいわきへ。昨年は初日の午前中高萩市内の見事な夾炭層の露頭
につれていったが、今年は11月末の下見の段階でヤブがひどくなっていて怪我
が心配のため、そこは取り止め。竜さんのいらっしゃる鹿島や岩井市の茨城県
博にも寄りたかったのだが、時間の制約であきらめて、今年は湯本のいわき市
石炭化石館に直行。(残念。)
 バスの中で風景を見ながら講義。今年は古文のO先生が同行してくださった
おかげで、巣鴨プリズンの跡地の話や、江戸時代の北関東から江戸への水運、
筑波山を見ながら風土記の話、「みと」の言葉の由来の解説などに花が咲き、
大変面白かった。僕は棚倉構造線と東北日本・西南日本の境界の話、石材の話、
日立鉱山の煙害と大煙突、硫化鉱物の精錬の話、常磐炭田の話など。Y先生は
東京の温泉の成分の話、綾瀬川や手賀沼の話、逆転層の話と筑波山の植生のこ
となど。高層気象台の鉄塔を見ながら、高層観測の話やジェット気流、風船爆
弾の話など。ちょうど北茨城市の付近で局地的に雪が降っていて、気塊の説明
をしているうちに雪雲の領域を突き抜けて青空が広がりはじめ、感動。(この
日は寒波のため日本各地で大雪だった。)

 いわき市石炭化石館で3班に別れて見学。Y先生と僕と高1連中がそれぞれ
引率を担当したが、今年は僕は説明を手抜き。2時間時間をとって半分余って
しまった。エントランス・ホールに見事なトリケラトプスがでーんと居るし、
今年は目の突出した三葉虫などの標本も増えている。ここは毎年少しずつ標本
が充実しているので楽しい。石炭産業の記録も貴重な存在。
 
 14時、四倉経由で大久川へ。「海竜の里」に寄るが、工事中で休業。
 この少し上流で白亜系玉山層最上部が河床・河岸に露出していて、教育委員
会が以前に重機でクビナガリュウを発掘した露頭を見学。ここで琥珀探し。10
名余りがそこそこきれいな琥珀色・半透明の数mmの琥珀を炭化木片などの薄層
の間から採集。最大のものでは1cmを越えるものがあり、生徒は興奮していた。
(残念ながら虫入りはないみたい。)浜通りのいわきでは珍しく雪が降ってき
て暗くなり、退散。谷地鉱泉の石川屋に早めに移動。16時半到着は例年にない
早さだが、今年は雪が降るなど、とても寒かったのでよかった。

 夜にいわき市教育委員会の橋本さんがミカン1箱を差し入れに来てくださっ
た。毎年露頭情報など、いっぱいお世話になっているのに恐縮です。
 20時から僕が大陸地殻の話を講義。なぜいわき以北の双葉層群や福井などの
手取層群に恐竜や海棲爬虫類の化石がたくさん出るのか、という話から、大陸
地殻の土台のしっかりした場所の上にたまった堆積物であることを説明。それ
を導入にして、最近の大陸の分裂・衝突・集合の話や、先カンブリア時代の大
陸移動や分裂の証拠の話、大陸地殻に残された先カンブリア時代の大気や海洋
の情報を読みとる話など。事前に印刷したプリントだけで、スライドもなくち
ょっと準備が悪かった。1時間の予定が30分超過。明日の化石採集の心得をY
先生と僕で説明してから解散。
 夜の講義が終わって、今年は珍しくそそくさと就寝の用意をする生徒が目立
つ。数人の生徒と教師2人で、星空を見に外に出る。雪は止んだが薄く積もっ
ていてとても寒い。それにしてもすごい星空で、天の川がはっきり見えるのに
は驚いた。僕は本州で初めての経験かも知れない。生徒も教師も寒さを忘れて、
口を開けてぐるぐる回りながら指を指して星を見ていた。
 オリオン、すばる、カシオペア、北斗七星、北極星などを生徒と確認する。
「天の川は、いったいなにを見ているか、わかるかい?」と中2の生徒に質問
するが、ちょっと迷った様子。銀河系の円盤の中からまわりを見ると、どう見
えるかという話から、銀河の腕の話まで。しかしこれはちょっと話が飛躍して
感じられたかも。
 宿に戻る途中、飼っている牛がもーと鳴いて、都会育ちの生徒はびっくりし
たようだ。宿では近くの実家に行っていたO先生が戻っていて、実家の庭にお
いてあったという二枚貝化石の密集した岩石を持参してくださった。(O先生
は実家の盛り土に使った土砂からクジラの脊椎骨化石を見つけた方でもある。
それにしてもいわきは化石のすごいところだ。)

 26日朝、宿のご主人が巨大なアンモナイトの一巻き部分を知り合いの方から
手配してプレゼントしてくださった。50cmはある。巨大な縫合線がくっきり浮
き出ていて一同感激。
 9時前に歩いてアンモナイトセンターへ。建物の脇の体験発掘場で、説明を
受けた後一斉に化石採集。係の方は親切にもたき火を起こしておいてくださっ
たが、生徒は目の色が変わっていて、あたりに来るものが一人もいない・・・・。
転石にずいぶんいい化石があるので、それを拾って生徒に見せて、目の付け方
を教えてまわる。アンモナイトのかけらはけっこう出た。異常巻も数個。トリ
ゴニア(三角貝)十数個、サメの歯3個。イノセラムス(二枚貝)多数。寒い
ためか例年より効率が悪い気がする。11時切り上げ。近くの沢沿いの露頭へY
先生が引率。その後宿へ戻り、昼食。(例年はこのあと採集品のスケッチ)
 12時過ぎに出発。道路工事中の崖に、古第三紀漸新世の二枚貝化石(浅貝動
物群に属する)が大量に露出するところを、県道いわき−浪江線の途中で教え
ていただいていたので、そこで化石の産状の観察をするが、前夜の雪が残って
いてよく見えない。残念。

 松林の中をバスで走りながら、僕とY先生が終戦後の乱伐でこのあたりの里
山が丸裸になってしまった話と、生態遷移の話などを解説。O先生がすかさず、
「いや、燃料用と言うよりは、常磐炭田の炭坑の坑木に使うために伐ったので
すよ」とコメント。一同あらためて周囲の風景を見直す。
 四倉の駅前のスーパーによる。旧道をバスが入っていくと、立派なクロマツ
が何本もある。地元出身のO先生が解説。「これは昔の街道の名残でね、江戸
時代に街道沿いに植えたものが、こんなに立派になってまだ生きているんだね。
実は、こういう松の木はこの地方にけっこうまだ残っているんだけど、これを
切って製材所に持って行くとね、切るのいやだって断られるんだよ。どうして
だと思う?」。一同ぽかんとする。
「じつはね、こういう古い木を切ると、中にたくさん鉛や鉄の玉が入っていて、
ノコギリを痛めてしまうから、製材所の人はいやがるんだな。なんでそんなも
のが入っているかって?」これまた想像がつかない。「戊辰戦争の時、このあ
たりの諸藩は幕府側についたので、あまり知られていないけどこの付近は激戦
区だったのだね。戦いが終わってからもずいぶん処刑された人が出たらしい。
松の木から出てくるのは、その時代の撃ち合った鉄砲の弾なんですよ。」
 地元出身のO先生はこの他にもいろいろ我々の知らないお話をしてくださり、
とてもためになった。感謝。

 いわき市フラワーセンターはいわき(平)駅と草野駅の中間の、北側にある
石森山という丘陵のてっぺんにある。この付近に亀の尾層という、新第三紀中
新世の珪藻質頁岩の地層が露出していて、そこで最後の化石採集。やや深い海
に棲むソデガイの仲間がぺったりつぶれたかたちで、合弁でたくさん出る。そ
れに植物(広葉樹の葉)や、魚の鱗も多い。フラワーセンターの温室で暖かい
ひとときを、という引率者の思惑は、予想外の工事中閉園で挫折・・・・。
 実は亀の尾層の露頭の上方は不整合で、礫層や石森山火山角礫岩層と呼ばれ
る、第三紀の火山噴出物が見られるのだが、今回は寒いこともあってきちんと
説明しないでしまった。反省。

 帰路のバスは、学校から借りてきた教材ビデオを使って講義。Y先生の趣味
?で選んだ、宇宙関係のものを見せる。相対論的時空の話や、ブラックホール
の話など。惑星の軌道の話もあった。中学生には難しすぎたかも知れないと反
省。高1には好評だったのだけど。ついでに昨年1月に日米の研究者が発表し
た、銀河の中心にブラックホールがあることを確認した話などを紹介した。
 17時半過ぎ、暗くなった学校に到着。片付けして、今日の収穫をきっと家族
に自慢してるだろうなあ、などと考えながら20時前に帰宅。