NHKジュニアスペシャル 第12回「昆虫たちの情報戦略」
VTR台本 PD:杉山 優
NHKジュニアスペシャル「昆虫たちの情報戦略」 VTR1 ────────────────┬─────┬───────────────────────── 映 像 │ │ 音 声 ────────────────┼─────┼───────────────────────── カブト虫 │04 09│Q 昆虫は、ほかの動物と同じように │ │ 生活する環境に適応しながら キリギリス幼虫 │ │ さまざまに進化してきました。 │ │ しかし、その すがたかたち は トックリバチ │ │ 他の動物よりもバリエーションが豊富です │ │ 現在、地球に生きる動物の中で │ │ もっとも種類が多いグループです シジミチョウ │ │ この体の基本的なデザインは カミキリムシ │ │ 3億年も前に トンボ │ │ すでに完成していたと言われています │ │ 森CG │04 39│Q 今からおよそ3億年前の地球です │ │ 陸には深い森が広がっていました │ │ 昆虫は人間が誕生するよりも │ │ ずっと早くからこの森で生活していました ステノディクティアの群 │ │ しかし、なにから進化したのかは │ │ はっきりわかっていません │ │ ステノディクティア │04 57│Q ステノディクティア。 │ │ その飛び方はまるでトンボのようです │ │ プロトファスマ │05 03│Q プロトファスマ。 │ │ プロトファスマ │ │Q 今のゴキブリに似ています │ │ モヌラ │05 15│Q 3億年前の森に生きた様々な昆虫は │ │ 現在の地球に生きる昆虫と │ │ 同じ特徴をもっていました │ │ トンボCG │05 25│Q 昆虫は6本の足を持ち、 │ │ そのほとんどが羽も持っています │ │ しかし人間や恐竜など脊椎動物がもっている │ │ 背骨はありません │ │ その代わりに、からだ全体を薄い殻で覆っています │ │ │ │ 恐竜化石 │05 41│Q 脊椎動物ように背骨を持つと │ │ 体を支える筋肉を発達させて │ │ 大きくなることができます │ │ 恐竜はその典型的な例です │ │ カブト虫 │05 55│Q 一方、背骨を持たない昆虫は │ │ 外側の殻で体を支えています │ │ この構造は小さな体に適しています │ │ カブト虫CG │06 05│Q 殻の厚さをそのままにして │ │ 恐竜のように体を大きくすると │ │ 自分の重さでつぶれてしまいます │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ バロサウルスとカブト虫 │06 24│Q 潰れないために殻を厚くしてみます。 │ │ すると殻の厚みで │ │ 体内のスペースがほとんど無くなり │ │ 内臓など、必要なものが入らなくなってしまいます │ │ 昆虫は小さな体に適した能力を獲得し │ │ 進化してきた生き物なのです │ │ トンボ │06 39│Q 昆虫のもう一つの特徴は複眼と呼ばれる目です │ │ 回りの動きを敏感に感じとることができます │ │ 複眼 │06 48│Q 複眼はたくさんの小さなレンズが │ │ 寄り集まったものです。 │ │ この6角形の一つ一つがレンズです │ │ 断面模式図 │06 54│Q 複眼の断面を見ると │ │ まるでフィルムのように薄くできています │ │ しかもレンズの一つ一つが独立した │ │ 目の役割を果たしています │ │ この小さな目が2千個近く集まっても │ │ わずか1ミリ四方の大きさにしかなりません │ │ トンボの複眼 │07 15│Q トンボの場合、 │ │ レンズの数は2万5千個にもなります。 │ │ 頭の大部分を目でおおうようなことも │ │ 薄くて軽い複眼なら可能なのです │ │ 昆虫の目 │ │ また、昆虫は私達には見えない │ │ 紫外線という光を見ることができます │ │ 花 │07 34│Q 昆虫の目に似せた特殊なカメラで見ると │ │ 花の模様が違って見えます │ │ こうして昆虫は │ │ エサになる花粉や蜜を探しているのです │ │ そして花は昆虫にエサを与える代わりに │ │ 遠くまで花粉を運んでもらっています │ │ 昆虫に子孫を増やす手伝いをしてもらうために │ │ 花は昆虫にサインを送っているのです │ │ このほかにも昆虫は人間にはない能力を │ │ 持っています │ │ 蛾 │08 17│Q 天敵から身を守るために特殊な能力を身につけた │ │ 蛾を見てみましょう │ │ 夜空を飛ぶ蛾 │ │ 蛾は昼間の空を飛び回る鳥から逃れ │ │ 活動の舞台を夜に移した昆虫だと言われています。 │ │ その種類はおよそ20万種。 │ │ 夜行性の昆虫の代表です │ │ コウモリの群 │08 32│Q この蛾を主なエサにしているコウモリも │ │ 5千万年前から夜を活動の舞台にしてきました │ │ 洞窟のコウモリ │08 42│Q コウモリたちは昼間、洞窟や暗い所に身を隠し │ │ 日が暮れると蛾を求めて一斉に夜空に飛び出します │ │ コウモリ │08 55│Q 夜、活動するコウモリは目の代わりに CG │ │ さまざまな超音波を使ってエサを探し、捕まえます │ │ │09 03│Q まるでハイテク兵器のような 蛾を食べるコウモリ │ │ コウモリの攻撃から逃れるために │ │ この蛾は特殊な進化をとげました 実験室 │09 15│Q 蛾は、コウモリの出す超音波を聞くために 蛾 │ │ どんな仕組みをもっているのか調べてみました │ │ 蛾 │09 28│Q 蛾の羽の下にある小さな穴、 │ │ この中に鼓膜があります │ │ 鼓膜の図解 │09 37│Q その鼓膜の奥にはコウモリの超音波を聞くための │ │ 細胞が2つあります。 │ │ 蛾は、この細胞を使って巧みにコウモリの攻撃に │ │ 対抗しているのです │ │ 実験準備 │09 49│Q 蛾に超音波を当てて │ │ どんな動きをするのか観察します │ │ 波形 │ │ これは │ │ コウモリが蛾を捕まえる時に出す超音波です │ │ 実験 │09 58│Q 超音波を浴びた瞬間、急に蛾は羽ばたきを強め │ │ その後、羽の動きを止めました │ │ 蛾は2つの細胞によって │ │ コウモリが間近に来た時に発する超音波だけを捉え 夜空を飛ぶ蛾 │ │ すばやく逃げようとしているのです。 │ │ 実験 │10 18│Q 今度は実際に飛んでいる蛾に │ │ 今と同じ超音波を当ててみました。 │ │ │10 24│Q 超音波を当てた瞬間、 │ │ 蛾は地面に向かって落ちていくように見えます。 │ │ │10 30│Q 蛾の動きを細かく見てみると、身をひるがえし、 │ │ 急降下していることが分かります │ │ 蛾は、きわどいところでコウモリの攻撃を │ │ かわしているのです │ │ │10 42│Q コウモリが間近に接近したその時、 │ │ 蛾は突然コウモリのレーダーから姿を消します │ │ │10 53│Q 夜の空で活動するコウモリと蛾。 │ │ まったく違う進化の道をたどった生き物の間で │ │ 静かな情報戦争が繰り広げられているのです │ │ 11 05 ────────────────┴─────┴───────────────────────── VTR2 ────────────────┬─────┬───────────────────────── 映 像 │ │ 音 声 ────────────────┼─────┼───────────────────────── 森の木 │18 05│Q 昆虫の中には、それぞれの能力を生かし │ │ 互いに助け合って集団で生活するものもいます │ │ 穴の中のハチ │18 15│Q ミツバチも社会性昆虫と呼ばれる │ │ 集団で暮らす昆虫です │ │ ハチの巣 │18 24│Q この巣には │ │ およそ1万匹ものハチが群で暮らしています │ │ 群は、エサ集め、巣作り、蜜の貯蔵といった │ │ 分業によって支えられています │ │ 林ロング │18 37│Q しかしミツバチの群には │ │ それぞれの仕事を統率するリーダーはいません。 │ │ それでも、それぞれが互いに協力しあって │ │ まとまりのある社会を作っているのです │ │ 巣板 │18 52│Q ミツバチはどうやって UP │ │ 仲間とコミュニケーションをしているのでしょうか │ │ ミツバチが花粉や蜜の在処を │ │ どのようにして伝えているのか調べてみましょう │ │ 実験 │19 05│Q まず巣から100メートル離れたところに │ │ 人工のエサ場を作ります │ │ │19 13│Q 逆さまにしたビーカーの中から │ │ 少しづつ砂糖水が染みだしています │ │ このエサ場を最初に訪れた │ │ ミツバチに青い印を付けます │ │ エサ場〜巣板 │19 35│ このミツバチが巣に戻ったときに │ │ どういう行動をするのか観察します │ │ 巣板 │19 44│Q エサ場から帰ったミツバチが │ │ グルグルと回り始めました。 │ │ まるでダンスを踊っているようです │ │ │ │ 良く見るとダンスを踊るミツバチの動きに │ │ ついて回るものがいます。 │ │ それにオレンジの印を付けます 巣の出口 │ │ 巣板〜エサ場 │20 11│Q やがてオレンジの印を付けたミツバチは │ │ 次々と巣を離れていきます │ │ エサ場 │20 19│Q あっという間にオレンジの印を付けたミツバチは │ │ エサ場に到着します │ │ │ │ オレンジの印のミツバチは │ │ 明らかに青い印のミツバチに │ │ この場所を教えてもらっているのです │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ 博士 │20 36│Q ミツバチはダンスを踊りながら │ │ 羽を震わせたときにでる音を使って │ │ コミュニケーションをしていると考えられています ダンス │ │ │ │ ミツバチはこの音で │ │ どのような情報のやりとりを │ │ 行っているのでしょうか │ │ 研究室 │20 56│Q ダンスの音を細かく分析してみます │ │ ミツバチは、ダンスを踊るとき、 │ │ ほぼ決まった音を出しています │ │ 波形モニター │21 05│Q この音が巣からエサ場までの距離を │ │ 表すことが分かってきました │ │ 教授インタビュー │21 23│ エサ場を50センチとか1キロとか離して、 │ │ そこから帰ってきたハチが踊るわけですけど、 │ │ この音の │ │ 時間が大体670メートルを1秒に置き換えて │ │ 仲間に伝えているということが分かりました │ │ ダンスするハチ │21 44│Q 更に良く見ると │ │ 音を出しているときのミツバチの向きが │ │ いつも同じであることが分かります。 │ │ 実はミツバチの向いている方向と │ │ そのときの太陽の位置によって │ │ エサ場の方向を、仲間に知らせているのです │ │ ダンス図解 │21 09│Q ミツバチの巣は地面に対して垂直に立っています │ │ ミツバチは壁に張り付くようにして │ │ ダンスを踊ります │ │ まず音を出しているハチの向きと │ │ 垂直の軸との角度を仲間に知らせます │ │ そして垂直の軸をそのまま太陽に向けると │ │ エサ場の方向が分かるようになっています │ │ │22 40│Q エサ場から帰ってきたミツバチが │ │ ダンスを踊るたびに │ │ 更に多くのミツバチが巣を飛び出していきます │ │ こうしてエサ場へ向かうミツバチの数は │ │ どんどん増えていきます │ │ │ │ ミツバチの見事な集団行動。 │ │ それは1匹1匹が行う │ │ 単純な、音の情報のやりとりから │ │ 生まれていたのです │ │ バロ・コロラド島 │23 09│Q パナマ運河の真ん中に浮かぶ島バロ・コロラド島 │ │ この島にはとても高度な社会をつくるアリがいます │ │ ハキリアリ │23 20│Q ハキリアリです。 │ │ 葉っぱを運んで長い行列を作っています │ │ │23 26│Q ハキリアリは毎日巣を出て │ │ 森の木の葉っぱを切って回ります 葉を切り取る │ │ 長い足をコンパスのように使い │ │ 切り取る葉っぱの大きさを決めます │ │ そして鋭い顎をはさみのように使い │ │ 葉っぱを切り取ります │ │ 葉を切り取る │23 46│Q 葉っぱを切り取る作業は、昼も夜も続けられます │ │ 行列 │ │ ハキリアリは1年間に1トンもの葉っぱを │ │ 切り取ります │ │ 行列 │24 01│Q そんなにたくさんの葉っぱを集めて │ │ 一体なに に使っているのでしょうか │ │ 巣の中 葉っぱを張り付ける │24 10│Q 巣の中をのぞいてみましょう │ │ 巣の中には、切り取ってきた葉っぱが │ │ 更に小さく刻まれて、一面に張り付けられています │ │ 巣の中 │24 26│Q その葉っぱの上には │ │ 白い綿のようなものがついています。 │ │ これはキノコです。 │ │ ハキリアリは │ │ 葉っぱの上にキノコの菌を植え付けて栽培し、 │ │ それをエサにしているのです。 │ │ ゴミを捨てるハキリアリ │24 43│Q ハキリアリがキノコを栽培したあとの │ │ 古い葉っぱを運んでいます │ │ そして決まった場所に │ │ 葉っぱのくずを捨てていきます │ │ アリは専用のゴミ捨て場まで作っていたのです │ │ │25 06│ 山のように積み上げられた │ │ 大量の葉っぱのくずは │ │ やがて森の大地へと帰っていきます。 │ │ そして再び木を育てるのです │ │ │ │ ハキリアリは集団が生き残るために、協力しあい │ │ 森という環境を利用して、 │ │ エサを作り出しているのです 25 30 ────────────────┴─────┴─────────────────────────