地球表層付近での地球史的なH2Oの出入りの見積もり。(最近1億年を基準として扱う。)
1993.10.14 ver. 0.38E
萩谷 宏(東大・理・地質)
- 目的:
- 地球史を通じてのH20のやりとりを地質情報から見積もることはできないか。
- その時間的な変遷、量的変化を読み取りたい。
- また、H20が関与する効率的な大陸地殻生産プロセスを定量化するための基礎として。
- 問題点の洗いだし。
- H20の動き →もの(堆積物・マグマ)の動き・・地質体形成・・を読み取れるのではないか。
- =水を主人公にした地球システム
- 意識した点:
- このような問題は計算の精度よりも観測量の不確かさの方が大きいので、推定の根拠と誤差をなるべく明示する。
- 1億年というのは、ある程度大きい時間的範囲で平均化した動きを見たいため。(観測時間が大)。また、大陸地殻の生産を考える場合は106ー7年以上のオーダーでないと議論できない。(反応に時間がかかる)
- とりあえず計算そのものはなるべくシンプルにしてみる。
- 教科書や論文を探せば個別には多分もっと詳しく(一見?)正確な計算があるのだろうが、全体としてのものの動きを考えた例が見あたらないことと、自分でやってみることが理解を深める上で大切。この手の計算の難しさや問題点を認識するためにも意義があるだろう。
- 地質体の情報を基礎にする場合、地質体という記録に残ったものしか我々は見ることができないわけで、すでになくなってしまったもの(削剥など)はわからなくなってしまう場合が多く、その点を留意する必要がある。最近1億年を基準に選んだのはのは少しでもそのような不確定な要素を減らそうとしたためでもある。
*reservoirについての試算
- 1)海洋地殻のH2O現在量 (sedimentを除外)
- H2O含有量平均1%と仮定(Elton,1979; Ronov,1969)
- 体積 4×3.14×64002×0.7×5=1.8×109(km3)
- 1.8×109×1015×2.9×0.01=5.2×1022(g)・・・H2O量
- 誤差の計算
- 海洋地殻下部にあまり含水鉱物がない場合は、この半分くらいの値になりうる・・・ODPのデータで確認
- 2)海洋のH2O量・・・大気も含める
- 体積 4×3.14×64002×0.7×4=1.4×109(km3)
- 1.4×109×1×1015=1.4×1024(g)
- なお、多くの見積もりが1.3×1024を採用している。
- 3)大陸地殻のH2O現在量
- 必要なデータは、大陸地殻の体積(面積*平均の厚み)、平均のH20含有量
- H2O含有量平均0.9%と仮定(Condie, 1982)
- 体積 4×3.14×64002×0.3×30=4.6×109(km3)
- 4.6×109×1015×2.7×9×10−3=1.1×1023(g)
- 地殻の量についての見積りにはShubert and Sandwell(1989)では7.2x109km3 としている。
- 4)上部マントルのH2O現在量
- マントル中の存在量の推定・・・H2O平均存在度の見積もりに左右される。
- 仮に100ppmとすると、上部マントルを600kmまでの深さとして、
- 4/3×3.14×(64003−58003)=2.8×1011(km3)
- 上部マントルの岩石の比重を仮に3とする。
- 2.8×1011×1015×100×10ー6×3=8.4×1022(g)
- 現実的には、1000ppmのオーダー以上は考えにくい。
- →primitiveなMORBのH2Oが約0.1%=1000ppmであるから。
(Michael and Chase; 1987)
- →一の目潟の島弧下マントルのレールゾライトでH2O=0.1%以下
(青木1978など)
- 捕獲岩のデータは、100〜1000ppmの範囲に入るものが多いように思われる。(統計をまだとっていないが)。
- *上部マントルに1000ppm以上のH2Oを含む部分が広域的にあるとするとどうなるか?
- →ホットスポット起源の火山岩のなかに含水量が非常に高いものがあるはず。(分配係数が大)
- 5)最近1億年の付加体・造山帯・変成帯の生産
- 世界の地質図(i.e. Condie, 1989)からその面積を推定し、合計。
地域 |
延長(km) |
平均幅(km) |
体積(地殻を30km厚と仮定
)(km3) |
西太平洋(日本など) |
24000 |
500 |
3.60E+08 |
ヒマラヤ・アルプス |
11000 |
1000 |
3.30E+08 |
太平洋(NZなど) |
2000 |
400 |
2.40E+07 |
カリブ海 |
4000 |
200 |
2.40E+07 |
北米コルディレラ |
15000 |
1500 |
6.75E+08 |
南米−南極 |
13000 |
500 |
1.95E+08 |
北太平洋 |
5000 |
200 |
3.00E+07 |
合計 |
74000 |
738 |
1.64E+09 |
- この見積もりは考えられるほとんど最大値といっていいもので、(なんと大陸地殻の3分の1)、実際には古い地殻の断片が体積の大半を占めているものと思われる。例えば日本列島では最近1億年というと主に四万十帯より若いものが問題になるが、この幅はせいぜい150kmにすぎない。500kmの幅には飛騨帯などの古い大陸地殻の断片がふくまれているし、白亜紀〜第三紀の花崗岩類やジュラ紀付加体の占める面積が多い。
- おそらく上記の体積のほとんどは、以前の地殻構成要素が破片になって再構成されていたり、表面を新しい時代の堆積物や火山岩で覆われているために計上されてしまった見かけの値であり、堆積物にせよマグマにせよ、この値の10%程度というところが真の値ではないかと思われる。今後地質図をより詳しく区分していくことが必要だが、大陸地殻の垂直構造が問題として残る。
- ここでは、付加体の形成では大陸地殻→大陸地殻の物質(堆積物)移動+風化による含水率の増加、および海洋地殻物質の大陸地殻への固定が事の本質であり、一方大陸地殻の量的変遷を考える際には、多段階プロセスにせよ、主に上部マントルからのマグマというかたちでの大陸地殻への物質輸送を考えることがどうしても中心になる。したがって同じものに違う意味を持たせる場合がある。また何度も述べるように大陸地殻が壊されて堆積物の形でマントルにリサイクルすることも検討しなければならないが、その手がかりが思い付かない。
- (問題点)
- より現実的なことを考えると、あらたに堆積物・堆積岩をreservoirとして大陸地殻から分離して考える必要がある。堆積物中の間隙水(pore water)の扱いが難しいように思われる。堆積物中の間隙水の一部は変成の際に含水鉱物をつくるために使われることはないだろうか?
- 地質時代における堆積岩の直接的な量的推定は困難。間接的にはやりようがある?(微量元素・同位体)
- 下部マントルにも含水相が存在する可能性。あるいはmegalithの扱い。
- スラブ上面の含水鉱物の分解反応の進行速度、生じたH2Oの移動速度、結果としてdryなスラブの形成に要する時間の見積もりが必要。これらがかなり遅いとすれば(まだきちんと考えていない)面白いことが考えられる。
- 地球全体の議論はおいて、局地的に見た場合でも沈み込みで地球内部に持ち込まれるH2Oと大陸地殻生産がつりあっているか検討することが可能なはずで、
そのような視点は欠くことができない。例えば第三紀中新世以降の東北日本弧ではどうだろうか?。→現在までに海溝を通過した海洋地殻の量と大陸地殻形成量がつりあっているか?
- これらの結果から、
- *reservoirとしての、H2Oの存在比(現在量)の見積もり
- 大気・海洋:大陸地殻:海洋地殻:上部マントル=20:2:1:1.5
- ただし、上部マントルは100ppmで計算している。
- ”大気・海洋”のreservoirでは陸水や大気中のH2Oは海水に対して無視し得る量。
- この場合、全部の海水が20億年で海洋地殻とやりとりを完了する計算になる。
- (residence time)
- 島弧下の汚染マントルの形成rateの見積もりが必要。・・・島弧での地殻形成とマントルの汚染に使われるH2Oの比は?
- 汚染されたマントルは比較的容易に部分溶融をおこしてH2Oをメルトと共に上方へ輸送することが考えられる。・・・無制限にマントルにH2Oは入らないだろう。
- 汚染が継続して起こると、どのくらいの体積の汚染マントルを生産することになるか、計算が必要。
- マントル中のH2Oの入り得る鉱物相はほぼ決まっていて、推定が可能。→実験のデータ、マントル起源の捕獲岩(xenolith)の情報。しかし粒間に吸着されるものはどのくらいあるか?
- 例えばMORBのH2O量や島弧火成活動でのH2Oの動きを議論する際などに、H2Oの起源をそれぞれ特定する必要がある。しかし、H2Oそのものをラベルするのはきわめて困難。例えば希ガスなどで置き換えることが可能だが、挙動の違いを正しく把握しておくことが必要ではないか。
(必ずしも同じではあるまい。→水の方が含水鉱物をつくれる分だけcompatible?)
- 上部マントル以浅(+地殻、海水、大気)全体でのH2O量は意外に少ない。carbonaceous chondriteを材料物質として、現在の地球表層付近のH2O量を説明しようとすると、比較的H2Oの少ないCOあるいはCVのグループの平均的な1%という値をとっても、上部マントル分の体積でH2O=1025(g)にもなる。これは現在量の約2倍。
...volatileについてはコンドライトで地球組成を代表させるのはかなり無理。集積時の問題(脱出)か、材料が違うのか(または不均一)、コアなどに取り込まれたか。
*fluxの見積もり
- あ)海洋地殻の大陸地殻への付加
- 付加帯・変成帯における緑色岩の比率を平均30%と仮定(オフィオライト含む)する。造山帯の総延長74000kmのうち、付加体を形成しているのが約40000kmと仮定する。1億年の間に幅100km深さ30kmの付加帯(三角柱)ができるとして、海洋地殻→大陸地殻の物質移動は、
- 100×30×0.5×40000×0.3=1.8×107(km3)
- 1年あたりのH2Oの移動は、変成作用によるH2Oの損失を無視して
- 1.8×107×0.01×2.9×1015×10-8=5.2×1012(g)
- (問題点)
- ・緑色岩の比率の変化・・・付加体/変成帯、また、陸上に露出しているものが全体を代表しているのか?
- ・付加体の総延長、深さ、幅の推定。
- ・緑色岩の比率の見積もり・・・付加体・変成帯の地質図などの印象から。
いくつかの地質体について定量化してみる必要あり。
- ・一般に変成度の高い領域ほど緑色岩(玄武岩質岩石)の占める割合は高い=付加体の内部構造にはコンセンサスがあるようだ。→小川(1986)など)
- 付加体は沈み込みがあれば必ずそこにできるとは限らない。
- 衝突型造山帯(例:ヒマラヤ)を考慮する必要がある。
- 付加体の形態(特に深さ方向)がまだよくわかっていない。
- い)付加体・変成帯でのH2Oの放出
- 堆積物、特に粒間に存在する間隙水の扱いが問題
- 深さ15kmを境に、緑色片岩相→角閃岩相でH2Oが2%→1%に変化すると仮定
- 比重2.7を仮定
- 1億年で放出したH2Oの総量は
- 50×15×0.5×40000×1015×2.7×(0.02−0.01)
=4.1×1020(g)
- 1年あたり 4.1×1012(g)
- 緑色片岩相の岩石:堆積物→biotite schistなど。
bt, pl, qz, mus, ep, ...
玄武岩質岩石→greenschistなど。
chl, ep, act(hb), pl, (ga), ...
- いずれも全体としてH2O=2−3%程度と考えて差し支えない。
- う)海洋地殻の熱水変質によるH2Oの移動
- *海洋地殻の生産速度
- 現在の海洋地殻が平均1億年で形成されたものと仮定
(すでに消滅したものを含む)
- 5.2×1024×10-8=5.2×1016(g/year)
- cf.Staudacher and Allegre(1988)では 7.0×1016(g/year)
- これに、海底熱水変質で1%のH2Oが海洋地殻に加わるから、
- 1年あたり 5.2×1014(g)
- (海洋地殻の総量、生産速度は比較的正確な見積もりができる。また、オフィオライトや深海底掘削の成果で岩石の組成もよくわかっている。)
- え)大陸内(プレート内部)での火成活動によるマントル→大陸地殻への移動
- KimberliteのH2O含有量・・・平均7.4%(Wederpohl and Muramatsu,1979; Dawson, 1980)
- Kimberliteの活動、過去1億年に3km3のパイプが100本入ったとする。
1年あたりのH2O供給量・・・3×100/108×0.07×3×1015
=6×107(g)
- 同時に火山ガスとして放出される量・・・1−102倍?
- *同時に考慮すべきもの(大陸上のhot spot起源と考えられているものなど)
- ・Continental flood basalt
- ・アルカリ複合岩体、カーボナタイト
- ・リフト地域の火山岩 ・・・それぞれ推定が可能。
- 大陸内リフトが発達して中央海嶺系へと変化することはよくあるわけで、そこでのH2Oの放出は中央海嶺での規模に匹敵するものになる可能性もある。また、台地玄武岩(continental flood basalt)の活動(リフトに伴うものも多い)がH2Oの放出に大きな割合を占めている場合は、その活動サイクルといった認識と絡めてみると面白い。
- お)大陸地域の地熱地帯での熱水変質
- 具体的なデータがないが、最大の見積もりをしてみる。
- 過去100万年で106km2の地域で地殻の3%がH2O=2%に増加したとする。
(1km分)
- 大陸地殻のH2Oの増加は、
- 106×2.7×1015×0.01=2.7×1019(g)
- 1年あたりでは、 2.7×1013(g) (しかしこれは過大に評価しているだろう)
- このような熱水変質は一種の後退変成作用ととらえられる。次の項目か)と対をなす。(おそらく量的につりあっているのでは?)
- か)大陸下部地殻の変成作用によるH2Oの放出
- 過去の地質体で計算してみる。
- Greenland, Nuuk北方のAkia Terraneのグラニュライト地帯(200×100km、年代はほぼ28億年)について、厚さ10kmの角閃岩相の岩石(H2O=1%)が無水のグラニュライトに5000万年かけて変成されたと仮定する。当時他にこのような変成作用は地球上で起こっていなかったものとする。
- 放出するH2Oは、
- 200×100×10×1015×2.7×0.01=5.4×1018(g)
- 1年あたりにすると、 1.1×1011(g)
- (問題点)
- 変成帯の大きさの見積もり、活動の時代的な集中、地質体の保存・露出の確率
- 変成作用の継続時間(桁としてはおそらく105〜107年)
- 後退変成作用によるH2Oの付加(逆の過程)の量的見積もり
- 実質的にこれが問題になるのは、おそらく大陸の衝突(collision)の場合で、ヒマラヤで想定されているように、片方の大陸がもう片方の下に潜り込んでいるような場合にこのような激しい広域変成作用が期待される。大陸移動(分裂・集合)のサイクルに対応するだろう。
- き)沈み込みによるマントルへのH2Oの移動
- 例えばStaudacher and Allegre(1988)の希ガスによる分岐比の推定では、沈み込む揮発性物質の98%以上がArc volcanismで大気に戻る、としている。
- もしそうならば、マントルに入るH2Oが計算できて、沈み込む海洋地殻とその堆積物の比を5:1、それぞれ1%のH2O(角閃岩相)を持っていると仮定すると、海洋地殻の生産と消費が均衡していれば、
- 5.2×1014+1.0×1014×0.02=1.2×1013
- 1年あたり 1.2×1013(g)
- (問題点)
- マントルへの入り方、堆積物/海洋地殻比
- 含水鉱物がどの程度安定に存在するか →地球史的変遷は?
- マントルにH2Oが入ると部分溶融を起こし易くなる。島弧に限らずアセノスフェアなどにどのくらい入っているか。(CO2も面白い)
- く)RidgeでのマントルからのH2O放出
- 新鮮な海嶺玄武岩のガラス部分の組成から、H2O=0.1%と仮定
(P.J.Michael and R.L.Chase, 1987)
- う)での結果から 5.6×1016×1×10−3=5.6×1013(g/year)
- 実測値で0.1%と仮定したが、これは玄武岩のガラス質部分の値で、マグマ溜まり中で濃縮したものを見ているに過ぎないのかも知れない。海洋地殻の中部−下部ではもともとH2Oがもっと少ないものと考えるのが妥当。マントルとの収支を考えると、この推定は大きすぎる気がする。(付図参照)。半分〜5分の1にしないとつりあわない。
- け)地表での風化
- この10万年で全大陸上の岩石の厚さ1mの領域が化学風化により
- H2O=1%→2%に増加したものと仮定する。(注)
- 4×3.14×(6400)2×0.3×10ー3×1015×2.7×0.01
- =4.1×1018(g)
- 1年あたり 4.1×1013(g)
- 注)全大陸に適用することには問題があるが、具体例として香川県五色台付近の領家帯花崗岩が、12Ma以降現在までに温帯の環境下で約200−300m風化・侵食を受けている証拠がある。世界の多くの山地の侵食速度は、100−1000m/106(year)のオーダーと推定される。
- また風化現象の際に増加するH2Oの比率は一概に評価することは本来できないはずだが、次のようなやりかたである程度定量的な議論が可能になる。
- 陸上に露出する平均的な岩石(正確には露出する鉱物種の割合)を地質図などから予想する。
- 風化の具体的な消費鉱物種と生成鉱物種(粘土鉱物)を予想する。
- 砕屑粒子として運ばれるものと、粘土鉱物まで分解するものとの分岐比を推定。→河川の溶存成分から推定したり、海水中でそのほとんどが陸からのみ供給される化学種の平均滞留時間を用いることで、なんとかできそうな気がしている。同位体比を指標に用いることも可能か?
- 風化・侵食の場に曝される岩石の単位時間当たりの量の推定。特に、充分な風化を受ける低平な地形(例えば盾状地)のものと、物理風化が卓越する山地の侵食量をそれぞれ個別に扱うことが必要になるだろう。
- (問題点)
- 付加体の形成や堆積物の生産にダイレクトに効いてくる。(風化生成物は堆積物として速やかに移動すると考えるべき)。風化は環境条件による速度差が非常に大きい。植物の影響もある。
- こ)島弧火成活動(陸弧その他を含む)
- 基本的に沈み込み帯でマントルに入らなかったH2Oは、沈み込み帯直上の火成活動によって大気・海洋に戻ると考えられるが、その一部は大陸地殻形成に関与し、含水鉱物として地殻中に保存されると考える。
- 延長74000kmの島弧・陸弧下で1億年に幅100km厚さ10kmの地殻が形成されて、そのH2O含有量が平均1%と仮定すると、
- マントル→大陸地殻の1億年分のH2O
- 74000×100×10×1015×2.7×0.01=2.0×1021(g)
- 1年あたりでは 2.0×1013(g)
- また、火山ガスとして放出される量はせいぜいその10倍程度以下だが、
- か)での結果から沈み込むスラブのH2Oのうち98%が大気に戻るはずで、
- 1年あたり 5.2×1014×0.98=5.1×1014(g)
- (問題点)
- ・・・そうすると、大陸地殻の生産をこの場合はかなり小さく見積もっている可能性があることになる。(メルトの25%のH2O!?)
- 大陸地殻生産の観測量とあわなければ、fluidのみによる輸送を重視する必要がある?
- または、一度形成された大陸地殻のrecycle(例えばtectonic erosion)や上部マントルの汚染に使われる量(分岐比そのもの)を考慮すべき。
- 大陸地殻生産速度の見積もり・・・この場合現在量の大陸地殻を生産するのに、
- (4.6×109/7.4×108)×108=6×109(year)
- 6億年で大陸地殻ができてしまった!
- 実際には大陸地殻を壊して堆積物としてマントルに持ち込むプロセスも考えねばならず、実効的な生産速度は低下するはず。(どの程度かは不明)
- 検証の方法のひとつは、細粒堆積物を用いて大陸地殻表層のNdモデル年代を求める試みが多数あるが、これが16−20億年になる結果が多い。εNdを使って説明可能な範囲を考察できそう。
- 議論の論理が分岐比を仮定した後に循環していないか不安。
- さ)海洋でのhot spot :マントル → 海洋地殻(大気・海洋)
- ここ1億年で形成された海山の数を103個と見積もる。1個の海山の体積を底面の
- 半径50km、高さ5kmの円錐と仮定して、その総量は、
- 3.14×502×5×1/3×103=1.3×107(km3)
- 海山をつくる玄武岩質岩石の平均H2O=0.1%、(熱水変質を考えない)
- 比重2.9と仮定すると、1年あたりのマントルからのH2Ofluxは、
- 1.3×107×10ー3×2.9×1015×10ー8=3.8×1011(g)
- 推定の問題点:揮発成分の出方が一定ではないだろう。(最初は多い?)
海台そのほかを含めて計算する必要。→もう少し大きい値?
H2Oの含有量の推定の根拠・確からしさ。(0.1−1%?)
- 海山・海台の体積はかなり詳細に計算できるだろう。問題は初生的なH2Oのcontentが測りにくい。海山や海台の内部の岩石のデータがほとんどなく、陸上に露出しているものでそれらしい岩体から推定ができるが、そのうち海水起源の熱水変質によるものがどのくらい効いているか(大半?)わからない。Loihiなどの海底火山のガラスでは直接測れるが、それを全体に適用することはく)で述べたように問題が大きすぎる。
やってみてわかったこと・思ったこと
- ・なんとか桁の議論はできそうだが、それ以上の精度は今後もあまり期待できない。このような初歩的かつ大規模なものの動きの試算は、むしろ系の全体の様子をおさえることに有効であり、かなりおおざっぱな問題意識あるいはきわめて本質的な問題の所在を確認するために行うのが賢い態度かもしれない。
- ・発展性を考えると地域的な物質収支の議論に持ち込むことが必要。
- ・この程度のことなら四則演算で充分面白いことができる。地質のデータをもっといろんなことに活用できるはず。
- 謝辞:
- マントルの含水量の見積もりについて助言をいただいた阿部 豊氏をはじめ、発表内容に討論いただいた揮発性物質セミナー参加者諸氏に感謝します。
- 文献
- Condie, K.C.(1982,1989):Plate tectonics and crustal evolution.(2nd, 3rd ed.)
- Pergamon press.
- Ronov, A. B.(1992):Chemical evolution of sedimentary and magmatic rocks in the Earth's crust. in "Early organic evolution" M. Schidolowski et al.(ed.)1992. p546-549. Springer-Verlag.(最近のもの)
- Anderson, D.L.(1989):"Theory of the Earth". 366p, Blackwell.
- 巽 好幸(1989):沈み込み帯における火山活動T。科学(岩波)vol.59 no.7.(日本語)
- Michael, P.J., Chase, R.L.(1987):The influence of primary magma composition, H2O and pressure on Mid-Ocean Ridge basalt differentiation.
- Staudacher, T., Allegre, C.J.(1988):Recycling of oceanic crust and sediments: the noble gas subduction barrier. EPSL, 89., 173-183.
- 青木謙一郎(1978):上部マントルの岩石学。岩波講座地球科学3・第3章。(総説)
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