嶺岡林道の蛇紋岩と各種岩石

千葉県鴨川市


嶺岡林道

嶺岡帯の蛇紋岩・玄武岩類のつくる地形(南の仁右衛門島から撮影)

林道沿いの蛇紋岩の露頭

蛇紋岩の内部のブロック

嶺岡林道から南の古第三系を望む


 房総半島の南部、安房鴨川の南から平群(へぐり)にかけて、東西に延びる丘陵に蛇紋岩と、蛇紋岩に取り込まれた各種岩石が分布しています。(また、嶺岡層群と呼ばれる古第三紀の地層も見られます。)

 どんな岩石が出てくるかというと、玄武岩(枕状溶岩)、粗粒玄武岩(岩脈?)、角閃石はんれい岩といった、海洋地殻の構成要素の岩石や、鴨川港にでているような各種の低温高圧型の変成岩(ただし、変成度は高くない)、そのほか閃緑岩などの深成岩や、堆積岩も、蛇紋岩の捕獲ブロックとして報告されているようです。

 ここではいくつか地学的に面白そうな岩石を説明します。

*蛇紋岩

 青光りする、マントルの石が地表近くで加水分解した岩石です。詳しく見るともともとは2種類(dunite, harzburgite)あるのですが、いずれも海洋地殻の下にあって、マグマ(→海洋地殻になる)を絞り出したあとのカスだったものと考えられます。

 露頭では多くの場合ぐずぐずに風化していますが、ブロック状に塊をなす蛇紋岩が、つるつるした境界面(鏡肌)を持って入っている場合があります。表面の色は青から緑、黄緑、黒色と様々ですが、ほとんど同じものです。5mmくらいの輝石の結晶(の痕跡)が残っている場合がありますので、よく見てみましょう。日に当てるとへき開面できらっと金色に光ります。かんらん岩は輝石の種類と量で分類するので、これが見つかればたいがいharzburgiteですね。

 露頭の蛇紋岩はぐずぐずになっていますが、よく見るとクラックの入り方やブロックの配列に規則性があるかもしれません。方向を測ってみて、その意味を地図上で考えて見ると面白そうですね。

*蛇紋岩砂岩

 蛇紋岩砂岩というのは、ある時期その蛇紋岩が海底(ないし陸上)で露出していて、侵食を受けていたいたことを示すので重要です。マントル物質が地表に露出しているのだから、まんじゅうのあんこではありませんが、めちゃくちゃな話です。

 海底に蛇紋岩が露出して、小山ができているところが、最近西太平洋の海溝の陸側斜面のあちこちで見つかっています。どうしてそんなものができるのか、という理由は、おそらく海洋プレートの沈み込みに伴って、地球内部に持ち込まれる水が地表に戻ってくるプロセスと関係があると思うのですが、まあ、まだよくわかっていませんと書くべきですね。

 そういうわけで、当時沈み込みの場にあって、蛇紋岩の海底への露出があった証拠と考えて良いのでしょう。どんな場にあったものかを知る、いわば示相化石のようなものですね。(海溝の陸側、前弧域(fore arc)の証拠と考えられます。)

 僕はまだ現物にお目にかかっていないので、ぜひ観察したいです。

*ピクライト玄武岩

 玄武岩ですが、大きなかんらん石の結晶(数mm〜1cm)が、じゃらじゃらと大量に入っている点が特異な岩石です。もしこれらのかんらん石がマグマの状態で溶け込んでいたとすると、SiO2がとても少ない、異常に高温のマグマだったことになり、特殊な場合をのぞいて実際にあったとは考えられません。そこで、玄武岩質のマグマがすでにあったかんらん石の結晶をたくさん取り込んで、そのまま地表に上がってきたものと考えられています。

 これは何回か露頭で観察しましたが、普通の玄武岩のなかに取り込まれたような、おかしな産状を示します。岩石は風化が進んでいて、新鮮とは言えないのですが、緑色半透明のかんらん石はなかなか感動します。露頭はかなり崩れていて、よくわかりません。転石をあたった方が確実によい標本が得られます。ボロボロ崩れやすい土のような岩石になってしまっていて、あまり玄武岩という印象はありませんけれど。

*角閃石はんれい岩

 かつては海洋地殻の下部を構成していたと思われる岩石です。玄武岩質のマグマが、地下でゆっくり冷えた、マグマだまりの化石と考えてもいいですね。しかしこの岩石は、角閃石と斜長石でできている点で、普通の海洋地殻の岩石とは異なります。角閃石は有色鉱物ですが、水分子を数パーセント含んでいます。つまり、この岩石を作ったマグマは比較的水の多いものだったようで、それは沈み込み帯(島弧地域)の特徴です。太平洋や大西洋の中央海嶺でできる、海洋地殻下部のはんれい岩では、このようなことはまずありません。(ふつうはかんらん石+輝石+斜長石)

 林道沿いに蛇紋岩に取り込まれたブロックとして、良い露出があります。比較的岩石も新鮮で、部分的に角閃石の結晶が大きく成長した粗粒の部分も見られます。

なお、枕状溶岩は新屋敷海岸の他に、嶺岡浅間付近の採石場などで観察できるようです。変成岩・堆積岩にもいろいろ面白いものがあるようです。

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