プレート・テクトニクスの話

 大陸移動説を唱えたことで有名なのはウェゲナーですが、その主著「大陸と海洋の起源」は岩波文庫に和訳が出ています。彼が大陸の移動を考えた根拠は、いろいろある(岩波文庫の和訳を読むと、たくさん挙げてあってかえってわかりにくい)のですが、主なものは、大陸と大陸の形が、パズルのようにはめあわせができることがあります。例えば南アメリカとアフリカなんて、ぴったり合いますね。(地図帳を出して自分で確認してみよう。)

 あるいは、ペルム紀の氷河の痕跡が、インド、アフリカ、オーストラリアなど複数の大陸にわたって見られること(いまの南極大陸が分裂したら、どうなるだろう?)、共通した動植物の化石が見つかることなどです。

*(オーストラリアの生物は特有のものが多く、例えばコアラやカンガルーは他の大陸にはいない、これはオーストラリアが中生代以後孤立して、他の大陸とくっついていなかったからで、くっついていたら動物の移動は簡単でしょう。)

 (以下の図は、図説地球科学、岩波書店から引用。原図は岩波講座地球科学各巻と、雑誌「科学」から。)

 さて、こうしてみるとたしかに、昔はいくつかの大陸はくっついていた、と考える方が都合の良い事実が出てきました。それではみんながそれを認めたのか、というと、そうではなかったのです。最初は流行したのですが、どうして巨大な、かたい岩石でできている大陸が動くのか、という原動力が説明できなかったために、結局あまり受け入れられませんでした。地球の自転の遠心力で大陸が赤道付近に集まろうとする、などと、ウェゲナーは苦しい説明をしたのですが、計算してみると大陸を動かすにはそれでは全然ダメだということになって、廃れてしまったわけです。

 彼も1930年に、グリーンランドの探検中に遭難してしまい、以後しばらくは大陸の移動を唱える人はごく少数で、あまり世間に受け入れられなかったのです。

 ではいったい何がきっかけで大陸移動説が復活し、プレート・テクトニクスとして体系化されたのでしょう?。

 ひとつは地震波による地球内部の観測が進むにつれて、マントルの中に地震波の低速度層が見つかったことです。これがアセノスフェアの発見です。

 沈み込み帯での深発地震が、ある面に沿って並ぶということも、戦前にはわかっていました。こういう沈み込み帯は欧米にはないこともあり、日本の和達、ソ連のベニオフが東北日本や千島?の地震のデータで発見して、彼らの名前が付いています。(和達−ベニオフ面)

 地表の情報では、1950年代末に、地層のなかの岩石の残留地磁気から、昔の磁極の方向を各大陸ごとに求めたところ、古くなるほどずれが出てきました。また、中生代以前では平行移動する場合が多いこともわかったのです。これは、中生代以前には各大陸が一緒に行動していたという、直接的な証拠になりました。

 さらに、戦前にはほとんどわかっていなかった海洋底の情報が加わることで、地球に対する認識は大きな転換を迎えたのです。海底には大陸にあるような、むしろそれ以上に規模の大きい大山脈があって、ぐるっと地球を取り巻いていることがわかったのです。これが海嶺です。(海嶺系の図)大山脈と言っても、幅が1000km以上あって、高さは周囲に比べ3km程度ですから、水を取り除いたら、山には見えないかも知れません。(東アフリカのリフト・バレーの地形は参考になる)ちなみに、日本海溝の底は絶壁だと思っている人が多いのですが、これも縦横をきちんと書いてみると、急な方の陸側の斜面でも、平均で数度の傾斜しかないのです。

 ところで、じつは、いろいろな場合で軍事技術と科学の発展は関係があります。大戦後アメリカは精力的に海底地形の調査を進めたのですが、これはのちに戦略ミサイル原潜の航路選定などに利用されているのではないかと想像しますが、この結果、天皇海山列の発見(命名者のHessは日本びいきで?歴代の天皇の名前を海山に付けたのはいいのだけど、惜しいかな順番が合っていない・・。)や、大西洋中央海嶺、東太平洋海膨などの海嶺系の発見に結びついたのです。また、海上での磁力測定は潜水艦の存在を探知するのにも役立つ技術なのですが、これを用いて得られた海嶺両側の残留地磁気の縞模様から、テープレコーダーモデル、そして海洋底拡大説に結びついたのです。さらに言えば、NATOの潜水艦探知用のソナー網が、大西洋中央海嶺での微小地震の発見につながったというエピソードもあります。

 さてさて、これらの情報から、大陸がかつてまとまっていた時期があり、それが分裂していまの形になったらしいこと、その原因は海嶺のところで新しい海洋底ができて、両側に拡大していることらしい(図表の海底地形を見て、大陸と大陸のあいだに海嶺が延びていることを確認してみよう)。そして、ふるい海洋底は日本や千島やアリューシャン、アンデスのような沈み込み帯、あるいはヒマラヤのようにインドとユーラシアの衝突を起こしているところでもいいのだけど、そういうところで消費され、マントルに戻って、リサイクルされることがわかりました。あるいは推定されたわけです。

 ウェゲナーの時代に、彼の考えが受け入れられなかったのは、どうして大陸が動くのか、という単純な問いに答えられなかったからですが、アセノスフェアの発見により、その上の部分=リソスフェアが、ちょうどフライパンの上のバターのように、つるつると動きうることがわかってきました。それで、多くの人が納得したのです。

 もちろん、個々の場合にプレートが動くのはなぜか、という問題は難しくて、現在プレート運動の駆動力をもっともよく説明するとされる、テーブルクロスずり落ち説(冷えた古いプレートが、沈み込み帯から内部に落ち込んでいくことによる、プレート運動の駆動メカニズム)ではうまく行かない場合もあります。例えば大西洋両側には、沈み込み帯はほとんどなくて、地球全体のプレートの生産と消費の関係でつじつまが合わせてあるのだろうと思われるけど、ほんとのところは大西洋がなぜ開くのかはうまく説明できないのです。

*(最近は駆動メカニズムを補足するものとして、プリュームテクトニクスが提案されています。)

 それでも、とにかく地球の表面付近の数100kmくらいのところは、何千万年というスケールの時間で見ると、つるつると動きうるのだ、という認識が出てきたことが重要なのですね。

 それはともかくとして、基本的にプレート運動というのは、ある種の地球表層の(マントルの)熱対流と思って良いのです。熱いみそ汁をじっと観察すると、みその粒があるところから沸き上がって、あるところで沈み込むのが見えます。それはみそ汁の表面で冷やされた部分がまた沈んでいるのです。ちょうどそのイメージで考えると似ていると思います。熱いみそ汁をふうふう吹いて、冷まして上澄みからすすりますね。

 太平洋プレートの、日本海溝の付近というのは、その冷めきってしまったところなのです。それで、これから海溝を通って沈んでいこうとしている直前なのだけど、地図帳を見ると日本海溝の東側のあたりの水深は、平均で7000m以上もあるね?。このあたりは、海嶺でできてから1億年くらい経ってしまって、冷えたプレート=リソスフェアの厚みが大きくなって、アイソスタシーの関係で他より沈んでいる、と、そういうわけなのです。逆に海嶺のあたりはアセノスフェアとして、熱くて軽い物質が浅いところまできているから、少し盛り上がって水深が浅く(2000m-3000m)なっているのです。

(実は、小笠原の沖合いからマリアナの沖合いにかけて、太平洋でいちばん古い、ジュラ紀にできた海洋底があるのですが、ここにはとても海山が多いのです。それは、白亜紀頃に地球のホットスポットの活動が活発だった時期があって、その結果と考えられています。また、地磁気の逆転が数千万年のあいだほとんど起こらなかったのも白亜紀前期なのです。地表で核の都合がわかるとしたら、面白いことです。)

(ところで、海溝付近や沈み込み帯で巨大地震が起きるのは、ひとつには沈み込むプレートの厚みが大きいことが原因です。海嶺でも地震はたくさん起きているのですが、どれも規模は小さい。これは海嶺のあたりではプレートが薄いので、海洋プレートが割れても小さな地震しか起きないのです。)

 逆に言うと、完全に地球が冷めてしまうと、プレート運動は起こらなくなると考えられています。他の地球型惑星を見ると、金星はやはりマントルの運動があるらしいのですが、厚い雲でこれまでの観測ではよくわからず、探査機のレーダーで地表の様子がわかってきました。月や火星を見ると、サイズが小さい分、冷えるのが速くて、プレート運動がなかった(特に月)か、もう終わってしまったように見えます。(地球も昔はいまのようなプレート運動ではなかった時期があるかも知れない)。火星のオリンポス火山なんて、巨大な火山があるのは、プレート運動がなくてホットスポットだけあるため、同じところでマグマが出続けて、ちょうど天皇海山列からハワイ諸島を集めたように、巨大な体積の火山ができたようです。

 沈み込み帯で沈み込んでいった海洋プレートがどうなるか、というのは、最近地震波による観測とか、ホットスポットの火山岩(マグマ)の性質を調べることで、少しずつわかりはじめてきています。

 マントルは深さ670kmくらいを境に、上部マントルと下部マントルに分けられるのですが、沈み込んだプレートのあるものは、その境を突き破って、下部マントルの方に入っていって、地球を一周するような、そんな循環をしているものもあるらしいと言われています。それが、地震波による観測で”見える”ようになったのです。もちろん、何億年という気の長いスケールなのですが。

 また、ホットスポットは核−マントル境界から発生している場合があるらしいと言われており、この沈み込んだプレートが核との間で物質のやりとり(金属元素の一部を核にとられる)をして、さらにそれがタヒチとかハワイのような、ホットスポットで地表に噴出するマグマの材料になっている場合もあるらしいという説があります。

 参照→プリューム・テクトニクス


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