希土類元素の地球化学的応用の話


希土類元素は

 固体地球化学では、特にマグマの生成や組成進化過程において、希土類は非 常に重要な指標になる元素です。イオン半径が連続的に変化し、その他の性質 がきわめてよく似ていることで、適当な材料(例えばCIコンドライトという隕 石)を基準にとってやって、希土類の各元素ごとの存在比をとってやると、き れいな曲線のパターンが得られる場合が多いのです。

 マグマが部分融解でできるときに、かんらん石や輝石への希土類の入りやす さが連続的に異なる(イオン半径が小さい=原子番号の大きいものがはいりや すい)ので、その存在度パターンの傾きで、部分融解の度合いや、どんな鉱物 が関与しているか、といった情報が得られるのです。

 この希土類存在度パターンの重要性は、1960年代に日本人の研究者によって 指摘され、研究が発展してきました。元東大・電通大の増田彰正、岡山大地内 研の松井義人の両氏です。また、これに関連して、造岩鉱物中の微量元素存在 度の問題は、亡くなられた茨城大の小沼直樹氏の業績が知られています。

・希土類存在度パターンの応用

 希土類の中で、性質の違いがあってすぐに分離できそうなのは、セリウムと ユーロピウムです。この2つは酸化数の違いで分離できる場合があります。ふ つう、希土類は3価のイオンになるのですが、例外的にセリウムは4価、ユー ロピウムは2価をとることがあります。つまり、酸化還元状態をいじってやる と、この2つの元素は分離できる可能性があるわけです。

 斜長石という鉱物は、結晶格子にCaの2価のイオンが入るようになっている のですが、しばしばこのサイトに性質(イオン半径、価数)の似た、Srが入り ます。そして、ユーロピウムの2価(酸素が少ないとできやすい)もこのサイ トに入りやすいのです。それで、Eu2+のイオンがたくさんできるような還元的 なマグマの中で斜長石が晶出すると、斜長石にEu2+がたくさん入って、一方、 残りのマグマ中のEuは他の希土類に比べて非常に少なくなります。

 じつは、月のマグマオーシャンの存在は、このEu異常で証明されたとも言え るのです。月の高地の斜長岩からは、非常に強いEuの正の異常が、また月のマ ントルをつくると考えられるかんらん岩塊や、そこから由来したと考えられる 玄武岩からは、Euの負の異常が検出されたのです。もともと、希土類の存在度 は隕石(コンドライト)と同じようなパターンを持っていたとすると、ユーロ ピウムを(斜長石で)大規模に分別するようなことを考えなくてはいけない。 それが、月の創世時代のマグマ・オーシャンだろう、というわけです。

#ちなみに、セリウムは地表の酸化状態を判断するのに使われるようですが、  詳しくないので今回は割愛します。

・希土類を含む鉱物 レアメタルと炭酸塩マグマと大陸移動

 →モナズ石、バストネス石、ゼノタイムなど。

 モナズ石(Monazite)はCePO4と表記される場合が多いですが、実際にはセリウ ムだけでなくLa,Pr,Nd,Smなどの軽希土(Light Rare Earth Element =LREE)を、 たくさん含んでいます。日本でもかつて福島県の石川地方などで、ゼノタイム とともに、ペグマタイト鉱物としてよく採集できたようです。

 ブラジルの希土類の産地は、カーボナタイトという特殊な火山岩の、風化土 壌の部分に濃集しているものが重要だそうです。カーボナタイトというのは、 なんと炭酸塩のマグマ(Na2CO3,CaCO3,…)が固結したもので、見かけは結晶質石 灰岩(大理石)に似ています。ブラジルのものは白亜紀頃の貫入岩(大西洋の 開裂と関係がある)です。→ちょっと昔の地球の大陸配置(2億年前)

 カーボナタイトというのは、そんな、とっても面白い岩石なのですが、この 中にもともと希土類は濃集(普通の岩石の10-100倍)していて、さらに希土類 元素は水に溶けにくいので、その風化土壌中に残留して濃集しているのだそう です。それを鉱床として掘っているらしい。半径数kmの貫入岩体として入って いることが多く、衛星写真でも地形に現れる(風化されやすくてへこむ?)の で探しやすいみたいですね。


希土類元素の地殻中の存在度(推定:松井義人、1987による)

 元素 存在度(ppm)推定値

 La   30
 Ce   60
 Pr   8.2
 Nd   28
 Pm   -
 Sm   6.0
 Eu   1.2
 Gd   5.4
 Tb   0.8
 Dy   4.8
 Ho   1.2
 Er   2.8
 Tm   0.5
 Yb   3.0
 Lu   0.5


石からわかること

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