地球の水と空気の歴史

萩谷 宏

 

水惑星・地球の誕生

 地球は太陽系の他の天体とともに、約46億年前に誕生したと考えられています。原始太陽のまわりを回るガスとちりの円盤から、鉱物や鉄や氷でできた無数のちりがあつまった直径数十kmほどの微惑星という天体がたくさんできて、それが太陽の周りを回りながら、自分たちの重力によって引き合い、衝突・合体しながら大きくなり、今日の惑星のもとができあがったと考えられています。

46億年という数字がどうしてわかるかというと、岩石をつくる鉱物の中にわずかに含まれる、ウランなどの放射性物質を精密に測定し、それが太陽系の最初の頃から現在までどのくらい減っているかを調べることが重要です。ウランなどの放射性物質が種類によってどのくらいの割合で壊れていくか、という精密な測定結果がすでに出されているので、そのデータを使って計算で求めるのです。ですから、太陽のまわりを地球が何回回ったかを数えたわけではないのですが、たくさんの研究者が何十年も精密な測定を繰り返して出した値として、多くの人々が信用する数値として認められているのです。

 およそ46億年前、微惑星の衝突合体の過程で、太陽や太陽系の主な材料である水素やヘリウムなどの他に、微惑星の材料に含まれていた水蒸気や二酸化炭素などのガス成分が放出され、原始惑星を取り巻くようになります。この大気がもつ保温効果(温室効果)によって、次々に起きる微惑星の衝突で発生する熱が閉じこめられ、原始惑星の表面は高温になり、どろどろに融けた状態になったと考えられています。この状態をマグマ・オーシャンといいますが、マグマ・オーシャンができたことで、地球の原始大気は水蒸気と二酸化炭素を主成分としたものになったと考えられています。そして、微惑星の集積がほぼ完了し、表面の熱が宇宙空間に逃げ出すことで表面が充分に冷えると、大気中の水蒸気が雨として地上に降り、低いところにたまって、海洋を形成したのだと考えられます。こうしていまの地球とはだいぶ異なる姿ではありますが、水惑星・地球が誕生しました。

 このようなストーリーは、隕石の研究と、理論計算や実験の結果から組み立てられています。隕石の中には、地球や金星、火星などの、地球型惑星と呼ばれる、岩石と鉄でできた惑星の材料になったと思われる原始的なものがあります。太陽系形成時の微惑星の「化石」ともいうべきこのような隕石は、炭素質コンドライトと呼ばれるタイプのものです。それは微惑星の段階からあまり大きな変化を受けず、小惑星として太陽の周りを46億年にわたって回っているできかけの惑星があって、その破片が地球の軌道に飛び込んで落下してきたものと考えられます。この炭素質コンドライトという隕石は、その成分が太陽系全体の化学組成ときわめてよく一致していて、太陽系の材料というにふさわしいものです。そして、重要なことはこのタイプの隕石は、重量の数%〜十数%にも達する水を含水鉱物として含んでいるのです。したがって、このような隕石を材料として地球ができたのであれば、たくさんの水が地球には最初からあったことになります。

 地球を始め金星や火星などの惑星は、マグマ・オーシャンの状態を経験したと考えられます。そして、材料がほとんど同じであるとすると、金星や火星にも大量の水蒸気と二酸化炭素の大気が生まれ、一定期間はそれが存在したものと想像されます。しかし現在の金星と火星には、海洋が存在しません。太陽系の中では地球は液体の水が大量に表面に存在するという点で、特殊な惑星です。金星と火星は、かつて存在した水(水蒸気)が失われてしまい、現在のような水がほとんどない天体になったのです。その原因は、金星の場合は太陽に近すぎて表面の温度が下がりにくく、海ができにくかったことと、太陽からの紫外線で水蒸気が水素と酸素に分解され、なくなってしまったことであり、火星の場合はもともとサイズが小さく、重力も小さいために大気が保持できず、水蒸気もその多くが宇宙空間に逃げてしまったということが考えられます。

最近、アメリカの火星探査機が次々と火星表面のデータを送ってきていますが、火星にはかつて海洋が存在したことが、火星の地形や表面の物質の分析から推定されています。

 

*1 太陽系の年代として46億年という値が使われるのは、太陽系の天体の材料であったと考えられる、このような隕石の放射年代を調べると、45.5〜45.6億年前に集中することが根拠となっています。

*2 マグマ・オーシャンの記録は、地球や金星、火星といった惑星では、その後の火山活動や地殻の更新のために残っていません。しかし、月はサイズの小さい天体で火山活動が早い時期に停止し、古い時代の状態が比較的よく残っています。マグマ・オーシャンの痕跡が表面で採集した岩石の化学組成から読みとられました。

*3 かつての太陽系のように、原始星の回りにガスやちりの円盤が取り巻いている状況が、ハッブル望遠鏡の観測でオリオン大星雲の中に見いだされています。理論計算で求めた太陽系の初期の姿が、観測で裏付けられたことになります。

 

 

海のある惑星

 表面に海洋が生じた頃の地球を想像してみましょう。表面の温度は300度以上、数十気圧の二酸化炭素と、水蒸気を多く含む大気が覆って、高温の海水は海底の岩石と反応し、様々なイオンを溶け出させていたでしょう。また、あちこちで高温の温泉がわいていたことと思います。火山活動は活発で、玄武岩の溶岩が海底や陸上で流れ出し、水に触れて白い水蒸気を吹き上げていたでしょう。大気に酸素はなく、生物はもちろんいない、太陽の光も充分に届かない、そして濃密な大気でゆらゆらと陽炎が立つ、想像を絶する世界だったでしょう。

 地球の歴史を通じて、地球の大気の主成分は二酸化炭素と窒素であったと考えられます。これは金星の現在の大気と似ています。金星の大気は、地球のおよそ100倍の濃い大気で、その98%が二酸化炭素です。金星と地球の大気の違いは、海が安定して表面に存在し続けた地球と、そうならなかった金星との違いであると考えられています。表面に海があると、水に溶けやすい二酸化炭素は海水に吸収され、石灰岩のかたちで地層の中に固定されていきます。そうして、最初は数十気圧分もの量があった二酸化炭素は、海洋の形成とともに、数気圧のレベルまで急速に低下したと考えられています。

 現在の地球の地殻に存在する石灰岩や、石炭・石油などの炭化水素をすべて二酸化炭素に戻したとすると、その量は初期地球と同じ数十気圧のオーダーになります。もし大気にそれだけの二酸化炭素があり続けたとすると、二酸化炭素は温室効果気体ですので、地球の表面温度が高くなりすぎ、海水がみな蒸発してしまうことも考えられます。海洋が存在することで、二酸化炭素の量が調整され、温室効果で地球が暑くなりすぎることを防いだと考えることができます。そしてその働きが海洋を蒸発させず、また凍結させず、安定して液体の水の状態を維持してきたとも考えられるのです。

 火星の大気も地球の1/100以下の薄い大気ですが、99%が二酸化炭素です。したがって、地球型惑星では二酸化炭素を主とする大気がふつうで、地球がむしろ例外的なのだということになります。

 

 海洋の存在は、最初の生命の誕生、そしてその後の生物進化を助けました。海中で最初の生命が誕生し、発展してきました。生命の歴史の90%は海水中での発展の歴史なのです。最初の生命の誕生はどんなところで、どうやっておきたのか謎であり、いつのことかもわかりませんが、地層の記録から判断して、38-40億年前頃ではないかと想像されています。これより昔の時代には、隕石の落下が激しく、海洋が蒸発してしまうような激しい衝突もあって、生命が安全に守られる条件が整わなかったという可能性が、月面でのクレーター年代分布の調査から考えられているのです。

 地球上で年代のわかっている最古の地層は、グリーンランドに分布する38-39億年前のものですが、この地層の中には、石灰岩や砂岩、そして縞状鉄鉱層という、海水中で沈殿した酸化鉄を多く含む地層がみられます。また、噴出したマグマが水中で急速に冷やされてできる、枕状構造を持つ玄武岩の溶岩も見つかっています。この当時、すでに地球には海が存在していたと考えられます。このことは、地球表面に液体の水が存在できる条件として、地球の大気についての制約条件を与えてくれます。

 前に述べたように、二酸化炭素は温室効果の高い気体ですので、大気中にたくさん存在すると地球表面の温度が高くなり、海洋が蒸発してしまうことになります。また、少なすぎると海洋が凍結してしまうことが考えられます。地層の証拠から液体の水として海洋が存在したとすると、二酸化炭素の大気中の存在量に制約がかけられます。

 地球と太陽の距離はおそらく変化していないと考えることができますが、太陽光度は昔ほど暗かったと考えられます。*4 そこで、太陽光度と二酸化炭素による温室効果のかねあいで、液体の水が安定して存在できる条件を計算すると、38億年前では二酸化炭素は数気圧、おそらく1〜2気圧分が大気として存在しただろう、と推定されるのです。地層の記録からは27億年前、そして24-21億年前に、氷期が存在したと推定されています。太陽光度は時代とともに少しずつ上昇していますから、これら氷期の記録は、大気の温室効果が次第に低下したこと、つまり大気中の二酸化炭素が減っていったことを示しています。

 大気から取り除かれた二酸化炭素は、その多くは石灰岩として地殻やマントルの中に取り込まれ、一部は生物活動で有機物に姿を変えて保存されたものと考えられます。最古の生物化石の認定には議論がありますが、およそ34-32億年前の地層には確実なバクテリアの化石がありますので、このころまでには生物が地球上に現れ、発展し広く分布するようになっていたと考えられます。例えば光合成バクテリアは二酸化炭素と水から有機物を合成し自分の体を作ります。これにより、二酸化炭素が消費されるようになります。その量は石灰岩に比べると少ないのですが、地球史を通じて考えると無視できない量があります。

 石灰岩の形成と生物の誕生と発展は、いずれも海のはたらきともいえますので、海洋の存在は地球環境をコントロールして穏やかに保つ役割を果たしてきたといえます。

 

*4 太陽は中心部の核融合反応でエネルギーを生み出し、それが太陽を光らせていますが、核融合を起こす中心部のヘリウムの芯は、時間とともに少しずつ大きくなり、それにつれて核融合によるエネルギー生産も大きくなります。理論計算では45億年前の太陽は現在の70%の光度しかなく、38億年前で80%くらいだったと推定されています。昔の太陽はいまよりも暗かったと考えられるのです。

 

 

酸素の大気のおいたち

 現在の地球の1気圧の大気中には、約21%の酸素が含まれています。そして、大気上層では酸素と、酸素が変化してできるオゾンが太陽からの有害な紫外線を遮断しています。初期大気には含まれていなかった酸素が、どうやって大気中に含まれるようになったのか、その秘密は、30億年にもわたる、ごくごく小さな生物の営みにあります。そして、酸素の増加に至るプロセスは、文明を支えてきた代表的な地下資源である鉄鉱石と密接に関係しています。

 

 海底に沈殿した鉄鉱物と、石英とが繰り返して縞状の地層をつくっているものを、縞状鉄鉱層といいます。39-38億年前の最古の海の地層にも含まれている縞状鉄鉱層は、地球史の前半には多く見られるもので、およそ20億年前までの海の地層の中には必ずと言っていいほど頻繁に含まれているものです。この縞状鉄鉱層ができるためには、酸素の少ない状態で海水中にとけ込んでいた鉄の二価のイオンが、酸素にふれて水に溶けにくい三価のイオンに変化し、水酸化鉄(酸化鉄)が海底に沈殿するということが海中で周期的に起きることが必要です。地層の中に縞状鉄鉱層があるということは、当時の海洋が一般に酸素に乏しい状態であり、かつ、何者かが酸素を供給して鉄鉱物を沈殿させる条件をつくっていたことを示します。

 酸素の供給源は、オゾン層のなかった当時、太陽から降り注いでいた紫外線が、水蒸気を分解して水素と酸素に変えていたことも考えられますが、生命誕生後、ある時代からは光合成バクテリア*5が重要な役割を果たしていたと考えられます。北米やオーストラリア、アフリカ、中国などで大量の縞状鉄鉱層が形成されている32-25億年前には、光合成バクテリアの活動が活発になり、その際に放出された酸素が縞状鉄鉱形成に大きく寄与していたものと考えられます。これらの大規模な縞状鉄鉱層の分布する地域では、大規模な露天掘りでこの地層が鉄鉱石として大量に採掘され、工業地帯に運ばれ、鉄の生産に消費され、現代文明を支えています。

 縞状鉄鉱層は、16億年前よりも新しい時代にはほとんど出現しません。これは大気や海洋に酸素が含まれるようになり、鉄が二価のイオンとしてとけ込むことが難しくなったことを示していると考えられています。地球の大気や海洋には、少しずつ酸素が増えてきたのです。陸上の地層を調べると、24-22億年前を境に、土壌に酸化鉄ができるようになり、そのころから大気中に酸素が増えてきたことを示しているという研究があります。

 酸素の増加は生物の進化にも影響を与えました。バクテリアの仲間から、動物や植物の仲間である真核生物というグループの生物化石が出現するのが、この24-22億年前の時代にあたります。真核生物というのは、ひとつの細胞の中に核とミトコンドリア、葉緑体(植物細胞の場合)が同居して、役割分担をしながら効率的に生きていくことのできる生物のグループです。これにより、単細胞で生きてきた生物は、多細胞化への道を得て、より複雑な生物が多数生まれるようになりました。最初の多細胞生物は10億年前よりも前に出現し、6億年ほど前にはクラゲなどのように有性生殖をする生物が出現して、進化のスピードを速めていったと考えられます。

 

*5 光合成バクテリアには酸素を発生するものと、酸素を出さないものがありますが、前者の例としてシアノバクテリア(藍藻ともいう)が有名です。シアノバクテリアはアオコや地衣類などで身近にも見られる生物ですが、その起源はとても古い生物です。シアノバクテリアの繁殖したところに周囲の砂が貼り付いてできる立体的な構造はストロマトライトと呼ばれ、30億年ほど昔の地層からも発見される、一種の生痕化石です。

 

森林形成と陸上生態系

 生物の進化は生命誕生以降、長期間にわたって海水中で進行しました。太陽からの光には、遺伝情報を記録するDNAを破壊する紫外線が含まれていて、それを遮断しないと生物は安全に生きていくことができないのです。大気中に酸素が少なくてオゾン層がなかった時代には、海水がオゾン層の代わりに紫外線を吸収する役割を担っていたと考えられます。それはおよそ5億年前まで続いていたと考えられています。

 生物の光合成活動が活発になり、酸素が増加するのは5.5〜5億年前頃です。このころ、大気と海水中の酸素濃度が増加することで、ひとつにはキチン質や石灰質の殻を持つ多細胞生物が多く出現し、それが生存競争を激化させ、生物進化を速めました。そしてもうひとつ、大気中の酸素濃度が現在の1/100程度に達して、大気上層でオゾン層が形成され、紫外線を吸収する酸素とオゾンのサイクルが機能し始めたのです。

 それまでシアノバクテリアなど厳しい条件下でも生育できる一部の生物を除いて、ほとんどの生物には進出できなかった陸上の世界が、生物の生活できる安全な場として解放されたことになります。最初に上陸した生物は、不完全な化石記録からは必ずしも読みとれないのですが、おそらく植物は緑藻類やコケ、そしてシダ植物が進化したと考えられています。一方、動物は節足動物の仲間が初期の陸上植物とともに発見されています。

 植物は陸上に生活の場を得ることで、水と無機栄養を吸い上げる根と、それを運ぶ丈夫な茎、そして光合成を担当する葉とを持つようになり、乾燥に耐えて子孫を残すための胞子というしくみを獲得しました。また、より多く光を得るために高く茎(幹)を伸ばして生き延びようという生存競争も始まり、結果として丈夫で分解されにくい木質の構造をつくるようになったものが現れ、それら木生のシダ植物が森林をつくるようになりました。

 丈夫で分解されにくい身体を持つようになったこれらの陸上植物は、枯れて倒れてもなかなか分解されず、地層に保存され、大量の石炭として地下に埋蔵されることになります。そしてシダ植物と、シダ植物から進化した裸子植物などの森林は4〜3億年前には地球上の大陸に広がり、そして大規模な炭田をつくることになりました。北米やヨーロッパ、中国などの炭田は、この時代の大森林が姿を変えたものです。

 シダ植物などの大森林が形成されると、光合成のために二酸化炭素が消費され、酸素が大気に放出されることになります。植物が分解されるときにその酸素は消費されるはずですが、分解されずに石炭として地下に埋蔵されると、その分の酸素は大気に残ります。こうして大気中の酸素が急速に増加しました。3億年前の石炭紀と呼ばれる時代には、地球の大気中の酸素は現在よりも多く、30%を越えていたと考えられます。二酸化炭素の減少は寒冷化をまねき、ちょうどこのころ南半球のゴンドワナ大陸には氷床が発達しました。

 4〜3億年前の大森林は、我々人類にとっても因縁の深いものです。この時代の大気は、二酸化炭素や酸素の量は若干違いますが、現在とほぼ同じ組成になっていたと考えられます。現在生きているすべての生物を燃やしたとすると、二酸化炭素の量は現在の数倍に増えますが、大気中に21%ある酸素は、その数字が1%減るか減らないかにしかなりません。我々人類が呼吸する空気中の酸素は、いま生きている植物の光合成ではなく、この時代の植物の光合成によってつくられたものが残っているのだともいえます。現在の植物の働きは、二酸化炭素の吸収には影響を与えていますが、酸素に関しては影響は大きくないのです。また、脊椎動物の歴史を考える上では、酸素の多い空気を直接肺呼吸するように進化した当時の魚類の中のあるものが、両生類として陸上生活に適応し、シダ植物の森林の中に生活の場を見いだしました。約3億年前には、両生類の中から爬虫類が現れ、そこからさらに哺乳類が進化していきますが、それらもまた森林の中で食物と住みかを得て、繁栄していったものたちなのです。

 

大陸移動と石油

 石炭紀の森林に現れた爬虫類の中から、2.3億年前に恐竜のグループが現れ、それからおよそ1.6億年の間、地上で繁栄することになります。恐竜が全盛を誇った1億年ほど前、白亜紀と呼ばれる時代の前後は、地球の気候は温暖で、大気中の酸素濃度が高かった時代であることがわかっています。この時代は酸素濃度の上昇は石炭の形成よりも、海洋でのプランクトンの繁栄が重要であったようです。この時代は海底にプランクトンの死骸として有機物が多く堆積し、そのなかの一部は石油として地層の中に閉じこめられました。

 石油がたまるところは、大陸移動と関係があります。恐竜が進化し繁栄した時代には、地球の大陸のほとんどはつながっていて、それらがゆっくりと分裂を始めていました。大陸が割れるところには、地球内部から高温のマントル物質が上昇してくるために、地殻が引き延ばされ、3方向に裂け目ができて、その2方向が隣の裂け目とつながり、大陸を割っていきます。大陸が割れたところには海水が入ってきて海ができます。大西洋もインド洋も、そのようにして大陸が割れてできた海なのです。残った1方向の裂け目は窪地として残り、そこに陸地からの土砂が溜まり、海で繁栄したプランクトンの遺骸を閉じこめます。また、大陸を割ったなごりの火山活動や地下の高温で、たまった土砂の中の有機物が熟成されます。こうして大陸の割れたところには、大規模な油田がつくられやすいのです。

 1億年ほど前には、大陸が割れる際の火山活動で、大気には二酸化炭素が多く、地球全体が温暖で、海洋では珪藻などのプランクトンが大繁栄した時代でした。現在知られている世界の油田の形成年代は、その半分以上が、1.5〜0.5億年前に集中しています。それには地球の大陸移動のタイミングと、温暖な気候と、プランクトンの進化と繁栄のタイミングが一致したという事情があります。

 やがて恐竜たちは絶滅の時を迎えます。およそ6500万年前、巨大な隕石の衝突が恐竜の繁栄に終止符を打ったと考えられています。そしてその環境の激変を生き延びた哺乳類のあるものが、森での生活に適応し、やがて草原に進出し、二足歩行と道具の使用を身につけ、人類への道を歩み出すのです。およそ320万年前に始まる氷期−間氷期サイクルを乗り越え、人類は進化と発展を遂げ、そして1万年前の最終氷期の終了と温暖な時代の始まりを迎え、採集・狩猟生活から農耕と牧畜の定住生活に移行した人類は、文明を生み出し、数千年のうちに現代の繁栄へと駆け上るのです。

 

現代の文明生活を考える

 これまで見てきたように、我々が文化的な生活をおくるために日々消費しているエネルギー資源や鉄資源のほとんどは、過去の太陽放射が生物活動を通して姿を変え、貯蓄されたものです。そして、我々が呼吸する大気中の酸素も、過去の生物活動の遺産であることに気づきます。何億年もかけて蓄積してきた資源を、数千年、数百年というスケールで急速に消費しているのが、現在の人類の姿です。

 一方、現在の地球温暖化の元凶と考えられている、我々人類が産業革命以降に放出してきた化石燃料起源の二酸化炭素は、放出量の約半分を海洋が吸収しているために、大気中の二酸化炭素濃度上昇が現在の程度で押さえられているという事実もあります。我々は資源を得るだけでなく、廃棄物の処理も地球システムに依存しているのです。

 人類の地球環境に与える負荷を整理すると、これまでにない速度での二酸化炭素の放出や、地表条件の大規模な改変、生態系の変化をもたらしているということになります。地球システムはそれらの変化に対しゆっくりと応答し、おそらく次の定常状態へ移行することでバランスを保とうとするでしょうが、そのプロセスで、あるいは次の定常状態そのものが、人類にとって都合の良い変化であるという保証はありません。我々は自分たちの活動が地域環境、地球システム、そして人類自身に及ぼす影響を見きわめ、これまで以上に慎重に、そして賢くふるまうことが求められていると言えるでしょう。

 

1. 初期太陽系を記録する隕石:炭素質コンドライト

2. 38億年前の海で堆積した地層(グリーンランド)