巣鴨学園で毎年年末に実施する見学旅行の際に、生徒向けに化石採集の注意事項をまとめたプリントをつくりました。一般的な化石採集のヒントになるかもしれませんので、参考までに。
1から16までのものがひとつでもないと、まともな化石採集はできない。しっかり点検せよ。
1)保護者の健康保険証のコピー。
2)化石採集研修用のガイドブック。(引用元)
…3)12月25日のバス内でとる昼食用弁当。4)きがえ用上下一着。
5)軍手。化石をてのひら上でわるときがあるので、よごれたものでよい。
6)くつした(2枚以上)。合成繊維はぬれるとすべるので、綿製品がよい。
7)携帯用レインコート。両手をあける。カサをさして化石はほれない。
8)てぬぐい。
9)スーパーでくれるビニールぶくろ。採集品をいれるので、3枚以上。
10)定規。
11)採集記録用の油性インクの筆記具。水性はまったく役にたたない。標本資料に直接記載するためには‘ペイントマーカー’がおすすめ。
12)採集品包装用ふる新聞紙。
13)ちいさな化石や破損しやすい化石を保護するためのティッシュペイパー。
14)カナヅチ。
15)園芸用こがたスコップ。
16)ドライバ。
この地層は化石が保存されている地層としては例外的にやわらかいので、園芸用のこがたスコップとドライバがあれば、十分やくにたつ。しかし、化石採集を趣味にしたいならば、化石用ハンマーやヒラタガネ(先端が偏平なタガネ)は必携で、どちらも東急ハンズでかえる。化石用ハンマーは1万円以上もするので、おいそれとはてがでないが、ヒラタガネは300円ほどで、化石以外にもいろいろな用途があるから、もっていても損はない。
17から20は必携ではないが、あると非常に便利。
17)ちいさい化石や、破損しやすい化石の収納用に、約4cm×約3cm×約2cm大のプラスチック容器を数個。東急ハンズにあり。
18)望遠鏡。1日めの天体肉眼観測にこれがあると、特に近眼には大変便利。
19)カメラ。"写るんです"などを2台くっつけた安生式特製立体視写真機が最高。
20)化石風化停止用噴霧式アクリル樹脂。これは、数名でおかねをだしあって1本かうのがもっとも利口な方法。東急ハンズにあり。
・まず、転石を見よ。人の掘り返した石を、裏側まで丹念に眺めると、化石が見つかることがよくある。
単位時間当たりに、いかに多くの表面積を調べるか、その効率が重要。あとは経験と運と化石を見る目の問題。
・どんな化石が出るのか、人の採ったものを見せてもらって、勘をつかむ。
・地層の中で、化石が集中して出るところは、ある層準に固まっていることが多いので、はやくそれを見つける。
・ハンマーを使うときは、周囲に人がいないか、充分に気をつけること。
・化石を見つけたら、必ず割れた面の反対側も確保すること。また、その化石の出ている面以外に、化石が入っている可能性はないか、チェックすること。
・わからないものを見つけたら、すぐ引率者に尋ねる。骨や歯の化石は一見してなんだかわからないものの場合が多いので、わからないからといって捨ててしまうと大失敗になる。
・こわれやすい化石は、乾燥しないうちに化石部分をティッシュでくるんで、包装してしまう。乾燥するとてきめんに脆くなるものが多い。また、ラッカー等を塗布する、あるいは瞬間接着剤で固めるのもよい。
割れて雄型と雌型に分かれたものは、別々に包装する。もう一度同じように合わせて梱包すると、化石の微細な模様がこすれて失われたり、最悪の場合は化石そのものがこわれてしまう。
・化石本体と、包装したものの両方に、サンプル番号、日付、場所、地層の名称、露頭の場所などを記入する。これを忘れてしまうと、化石の価値がなくなる。
・できれば化石の産状をスケッチしたり、写真を撮ることは、次に採集に行くときのためにも、参考になるので勧めたい。
・化石を掘ったあと、石のくずを放置しないこと。
Q:「化石を見る目」がない場合はどうしたらいいのでしょう。
すでにそこで出た化石を見せてもらうなどして、化石の勘をつかむことが大切なのです。巣鴨学園の旅行では、化石採集の前にいわき市の石炭化石館で、市内で産出する化石を一通り観察して、特徴をつかむように指導しています。
ある場所で出る化石は、種類が決まっている場合が多いですし、その特徴を覚えてしまえば、破片でも区別が付きます。また、目が慣れてきたら逆に、わからないものを捨てずにとっておくことも大事ですね。
Q:「化石を見つけたら、必ず割れた面の反対側も確保すること」というのは、ハンマーなどでたたくと,パコッと化石がとれるので(はずれるので),はずれる前の容器(?)に該当する部分の石も持ち帰れ,ということですか。
化石を割り出すと、片側で完全な化石ということにはならないのですね。二枚貝でも、内側と外側がある。内側の面はなめらかで区別が付きにくく、外側が大事なことが多いです。また、鑑定の決め手は二枚貝の合わせ目(歯)のところなのですが、これが割れた2片のどちらにくっついているかはわかりませんし。だから、両方必要なのです。
化石は厚みがあるのです。特に新しい時代のものは、殻が残っていますから。
Q:化石って湿った状態なんですね。どのように処理をすればいいのですか。
はい、湿ったものが多いです。そういうものは乾燥するともろくなるので、注意が必要です。
僕が特に注意することは、野外ではクリーニングせずに、大きめのまま持って帰ることです。石に入っている状態が、化石にとっては一番安定した状態なのです。その場できれいに出そうとすると、かえって傷を付けたり、化石を破損しやすいですね。持ち帰って、室内で注意深く作業をした方が安全確実です。
指導者がいる場合は、その注意に従えばいいことです。道路脇の露頭の場合などに、石の破片を放置されると困るのです。車のタイヤを傷つけたり,逆に車が踏んだ破片が人間の方に飛んできて危険な場合がありますから。
割りっぱなし、掘りっぱなしはマナーに反すると思います。我々の旅行では、毎年下見に行って現場の状況を確認して、地主さんや地元の方々に挨拶して回ります。また、いろいろなかたちで地元の方々のご協力をいただいています。そういう意味で、マナーには特に気を使います。
この原稿を書くにあたって、安生 健氏の例年のパンフレット、及びYPC(横浜物理サークル)の深海魚さんとのやりとりがとても参考になりました。記して感謝を申し上げます。