巣鴨学園のいわき化石研修旅行(1994)のパンフレット原稿から。
[ 1 ] 日本の火山の多くははなぜ帯状に分布しているのか?(火山帯)
マントルは固体である。マントルは地震波のP波とS波の両方が通って、外核はS波が通らないということは教科書に書いてある。だから、マントルは固体、外核は液体だろうと思われている。
地下は地上より高温だから、マントルのあたりまでいくと、どこでもそこにはマグマがたぷたぷしていると思ってはいけない。実は、マントルの中でマグマができるようなところは極めて限られていて、何か理由がないとマグマができるようなことは起きない。
基本的にマグマはまわりの岩石よりも密度が小さいので、浮き上がろうとする。浮き上がって運良く通路を見つけて(あるいは自分でつくって)地表に吹き出すと、そこが火山になる。
ある程度の量のマグマがあれば、マントルの中をマグマはかなり自由に移動することができるらしい。そこで、マグマが地下深くの上部マントル領域でひとたび形成されると、 ほとんど必ずできた分だけ浮き上がってマントルから吐き出され、地表に吹き出したり地殻にくっついたりしてしまう。
世の中マグマができるところ(上部マントル)は、45億年の地球史の間にすでにだいたい一度は融けてマグマを生産したことがある場所なのである。もちろんマグマを生産するところと言うのは一定ではなく、 時とともに移り変わっていくわけである。現在の中央海嶺の玄武岩の化学組成や地殻熱流量からのある試算では、上部マントルが平均して2回は融けたことがある計算になるのだそうだ。
地球上で火山が見られるところは限られている。沈み込み帯*1(日本のような島弧、アンデスのような陸弧と呼ばれる領域)、プレート*1の形成の場である海嶺や、 リフト帯(東アフリカなど)付近、そしてぽつぽつとプレート内部に見られるホットスポット起源の火山(ハワイ諸島など)の3つであるといって良い。どうしてそのような場所に限られるのだろうか?
海嶺とホットスポットは、地球内部から熱いマントル物質が上昇してくるところだと考えられる。温度が高いから、浅いところでマントル物質が部分的に溶けて、マグマを生じる。
ところが、日本のような沈み込み帯(島弧)でマグマが出てくるのはちょっと考えるとおかしい。プレートは海嶺やリフト帯でつくられ、それが水平に移動していく間に冷えて、低速度層(astheno-sphere)がだんだん深いところに移っていき、 プレート(litho-sphere)が結果として厚く、重くなって、海溝のような収束境界で沈み込んでマントル内へ戻って行くわけだ。そうすると、充分冷えたプレートが熱いマグマを生産するのだろうか?。これはおかしい。
でも、世界地図を見ればわかるが、沈み込み帯には火山が集中している。日本なんてひどいものである。カタログに載っている世界の陸上の活火山の1割が日本にあると言われているくらいだ。 で、良く見ると沈み込み帯に火山が集中していると言っても、けっして火山は沈み込むプレート側にはなく、沈み込まれるプレート側(上盤側)の、海溝から少し離れた位置に並んでいることに気づくはずだ。これはどういうことだろうか?
実は、マントル物質が融けてマグマを生じるには、加熱して溶かすほかに方法がある。それはマントル物質に揮発性物質を混ぜてやることで、マントル物質の融点を下げてやることである。
雪が降ると道路に融雪剤をまく。あれは塩化カルシウムなのだが、雪にそれが混ざることにより、融点が下がって、-5度でも雪が融けてしまうという現象が起こる。
あるいは塩水を凍らすには0度ではだめで、-5度とか-10度まで下げないと凍らないということは、君たちの生活実感としてあるだろう。アイスキャンデーでも同じである。
要するに、不純物を混ぜると物質の融点が下がるという現象は、自然界にたくさんある。そして、マントル物質であるかんらん岩もその性質があり、これに揮発性物質(この場合水)を混ぜてやると、てきめんに融点が下がってしまうのだ。
さて、沈み込み帯では沈み込んだプレートはその上面にたくさん水を含んでいる。正確に言えばその上面の海洋地殻部分の岩石が変成岩になっていて、 水分子をたくさん含んだ変成鉱物をたくさん含んでいる。これがマントル内の深さ130km以上に達すると、圧力(変成度)が上昇して水分子を含んだ鉱物がこわれてしまう。そうすると、行き場のない水分子は集まって流れをつくり、上方へ移動していく。 そのままその水が地表へ達すれば問題はないのだが、深さ60kmくらいのところで、そのあたりの温度が、水を含んだ場合のかんらん岩の融点を越えてしまうので、部分的にかんらん岩が融け始めてマグマができてしまう、そういう理屈になっている。
下側から水の供給がなければ、そのあたりのマントルは普通は融けたりしない温度なのである。つまり、沈み込み帯では沈み込むプレート上面からの水の供給が、火山活動(火成岩をつくるという意味では火成活動)の原動力になっている。
そういう目で見ると、日本の火山には爆発的な噴火をするものが多い。火砕流なんてのはその典型で、大量の火山ガスを含んでいるから起きる現象である。 火山ガスの大半は実は水蒸気で、そのもとを正せば海溝から沈み込んでいったプレートがマントル内に持ち込んでいった水なのである。

[ 2 ] 地球の強制排熱・・・沈み込み帯の火成活動

沈み込み帯での火成活動はどのような影響を地球にもたらすだろうか。先ほど述べたように、沈み込みを通じて地球内部に大量の水が持ち込まれ、それがある深さで放出されて、マグマを生産し、島弧などでの火山活動の原因になる。 日本という典型的な島弧において、それが長期間続いた結果を我々は身の回りの風景にに見ることができる。
表層での火山岩・火山砕屑岩(凝灰岩など)は、まさに島弧でのマグマの活動の産物である。石材としての大谷石はもちろんだが、江戸時代の石材としてよく使われている、箱根の安山岩もそうであるし、天気の良い日には富士・箱根・浅間・妙義・荒船・赤城・榛名・草津白根・日光連山などの火山を地平線に認めることができる。 筑波山は火山ではないが、島弧の特徴を持つはんれい岩を主体としている。そして、我々の生活する武蔵野台地を含め、関東平野の地質はその最上層に、関東ロームと名付けられた風化火山灰層が厚くたまっている。
島弧でのマグマの活動は表面にだけ表れるものではない。マグマのすべてが地表に噴出するのではなく、その大部分は、地殻の中のいろいろな深さでつくったマグマだまりから出ることなく、そこで固結してしまうようだ。 そうして花崗岩や花崗閃緑岩の深成岩体となる。結果として地殻の厚みの増加をもたらす。 できたての島弧の地殻は一般に薄い(10-25km)のだが、時間が経つにつれて地殻の厚さは厚く、幅は広くなっていくことが知られている。こうして島弧ではあらたな大陸地殻が生産されていく。
地球の中でマグマの役割を考えると面白い。マントル物質(かんらん岩)から、組成の違う玄武岩などの組成を持つマグマができて、地殻をつくっていくわけだから、マントル→地殻という方向での物質輸送を支えているわけだ。 同時に、地殻にとっては自分よりも高温の物質が浮いてくることになるので、熱輸送の役割も見逃せない。
島弧においては、水の供給が沈み込む海洋プレートの上面から起こらなければ、マントルの部分融解−マグマの形成というプロセスがおきるほど、地下の温度勾配は高温にならない。であるから、 島弧の地下深くでは水を供給することで強制的な排熱を行っているとも言えるだろう*1。強引にマントルの温度を奪っているわけである。
実は、このような水の表層−マントル循環による強制排熱の機構は、地球に特有なものであるらしい。そして、それこそが地球に特有な花崗岩質の大陸地殻形成に本質的に関わっているらしい。

[ 3 ] 変成岩について

(1) 変成帯の種類
低温高圧型の変成帯・・・三郡、三波川、神居古潭など。
高温低圧型の変成帯・・・領家、日高、阿武隈など。
以下、前者を高圧型、後者を低圧型と呼ぶ。
(2) できる変成岩の相違点
高圧型:変成作用に高い圧力が効いてくる→押しつぶされる、流動する・・・片状組織の発達、各種の結晶片岩ができる。
低圧型:変成作用に高い温度が効いてくる→再結晶作用の進行、粗粒になる、片状組織の発達が弱い・・・片麻状構造になりやすい。
(3) 変成岩の分類
変成岩の構成鉱物と組織で名前を付けるきまりがある。例:紅簾石−片岩(紅簾石を含む結晶片岩)、黒雲母−片麻岩、菫青石−ホルンフェルス、緑泥−片岩・・・。それらは基本的には、@材料となる岩石、A変成作用のタイプ、B変成作用の強さ(変成度*1)できまる。例に挙げたものだと、
岩 石 名 材 料 と な る 岩 石 変成作用のタイプ 変 成 度
紅簾石片岩 マンガンを含むチャート 高圧型 中くらい
黒雲母片麻岩 砂〜泥 低圧型 高い
菫青石ホルンフェルス 砂〜泥 低圧型 低い
緑泥片岩 玄武岩質岩石
溶岩、火山灰
両方出るが、
高圧型に多い
低い

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