日本の金属鉱床には、大きく分けて、(1)石英脈 中の金 や金属硫化物などを採掘する鉱脈鉱床と、(2)黒鉱
鉱床に代表される、地層中に保存された海底熱水鉱床(層状硫化物鉱床。変成岩中のキースラーガーを含む。)、
それに(3)石灰岩とかこう岩質マグマとが接触し、両者のあいだで物質のやりとりをしてできた、スカルン鉱床などがある。これらは基本的に地下の岩石の間を高温の熱水(温泉水)が通過する際に、岩石中の微量な金属元素成分を溶け込ませ、低温部で沈澱させて濃集したものだ。
つまり、水溶液の沈澱物なのである。例えば、温泉の湯ノ花が岩石中の割れ目を詰まらせたものが鉱脈鉱床であり、湯ノ花が海底に厚くたまったものが黒鉱のような層状硫化物鉱床なのだと言ってよい。
このような鉱脈には水が詰まった自由な空間ができている場合があり、そこでは様々な鉱物が周囲に邪魔されずに自分の形(自形)で成長することができる。神岡鉱山の方解石標本
はその良い例である。現在では隙間を埋めていた水はどこかに行ってなくなってしまっていて、岩石の中にぽっかり空いた空間(晶洞
)の、その壁面に生えていたものである。
ところで、金はふつうの酸に溶けないが、なぜ鉱床で濃集するのだろう。
これには、熱水中の塩素や硫黄のはたらきが大きな影響を与えている。
金も塩化物イオンCl-や硫化水素イオンHS-との錯イオンとして、水に溶けて移動する。
水溶液の温度低下やpHの上昇などで、これらの陰イオンの活動度が低下すると、水に溶けきれずに他の鉱物とともに沈澱を起こすことになる。それが金鉱となるわけだ。
このとき、多くの金属元素は硫化物のかたちで沈澱する。そのため、鉱山でこれらの金属鉱物を掘りだした後に、精錬といって金属を不純物から分離する工程が必要になる。
具体的には硫化鉱物を高温で酸化させて、二酸化硫黄として硫黄を取り除き、酸化物として得られる金属を炭素で還元して取り出すわけだが、
副産物として生じる二酸化硫黄が公害の原因になった。これを回避するために、例えば日立鉱山においては高い煙突を建築し、逆転層の上で煙を拡散して被害の軽減がはかられ、例外的に一定の成功を収めた。
戦後、脱硫装置の完成により、二酸化硫黄は回収され、硫酸や硫安などの製品として生産されるようになって、煙害の問題は解決された。
海水には塩化ナトリウム(食塩の主成分)をはじめ、いろんな成分が溶けている。海が干上がったところには、岩塩をはじめ、石膏 や重晶石、カリ岩塩などの鉱物が沈澱する。これらを蒸発岩と呼ぶが、地層の中にそのような蒸発岩が見られる場合もある。
南米のチチカカ湖や、死海、アラル海などの内陸の湖のなかには、塩分の非常に高いものがある。
これらの湖岸には、まさにその蒸発岩と言うべき塩の結晶が堆積している。
これらの湖は、海水が濃縮されたものではなく、普通の河川水が流れ込むだけで、蒸発量が多いために長期間にわたって濃縮され、
結果として海よりも濃い塩分が実現されたものが多い。例外的に火山地帯で温泉水が流入して塩分濃度が高いものも、東アフリカの地溝帯などに知られている。
川の水や井戸水は海水と区別して真水とか淡水と呼ばれるけれども、実はいろんな成分が入っている。
街で売っているポリ容器入りのミネラルウォーターの成分表示を見るとわかるように、いろいろな無機成分を溶かし込んでいる。
日本の水に比べ、外国から輸入するミネラルウォーターには、カルシウムの含有量が多いものがある。
日本でも石灰岩地帯を流れる水は、石灰岩の成分である炭酸カルシウムを溶かし込んでいる。
このようなカルシウムの量が多い水を硬水と呼び、カルシウムの少ない水を軟水と呼び慣わしている。
他にもごくわずかな量だが、マグネシウムやカリウム、塩化物イオンや硫酸イオンなどが含まれている。
これらの成分はただその濃度が低いので、我々は気づかないのだが、それが微妙な風味の違いを生んでいる。
ところで、これらの金属(陽)イオンや陰イオンはどこからもたらされるのだろう。
雨や雪として降ってくる水には、本来これらの金属イオンは含まれていない。 金属イオンは水の蒸発の際に海水中に取り残されるので、大気中の水蒸気には入っておらず、したがって雨や雪に入ることはできない。 酸性雨の問題は、大気中の二酸化炭素や窒素酸化物、硫黄酸化物が原因であるが、これらは気体の状態で大気中にあるので降水に含まれることができる。 それゆえに酸性になるのである。
金属イオンは、雨や雪が地表に降って岩石や地層にしみこみ、地下水となるあいだに鉱物から水の中に溶かし出されたものである。
だから、鉱物が壊れていく過程=風化現象によって、金属イオンが地表の水に供給される。
それは風化でこわされた鉱物片などとともに、河川を流れ下って海にもたらされる。
海では太陽放射のエネルギーによって、1年間に単位面積当たり平均1mの水位にあたる分の水が蒸発しているが、
無機イオンはこのとき蒸発できず、海水に残って濃縮されることになる。
こうしてみると、時間とともに海の水は濃くなる一方にも見えるが、そうではなく、
海水が干上がったところで蒸発岩を形成することや、海底での熱水変質により、海に溶けている成分が岩石中に持ち込まれ、取り去られていく。
この両者の釣り合いで海の塩分濃度は決まっているのである。
ところで酸性雨の問題であるが、これがアルカリ性の性質を持つ物質に触れると、中和反応が起こる。 この良い例が、鉄筋コンクリート建築物によく見られる鍾乳石の構造である。 コンクリートの原料のセメントは石灰石からつくるので、コンクリートには炭酸カルシウムが含まれている。 酸性の雨水が反応してその成分を溶かし出してしまい、それがぽたぽた落ちるところで、水の蒸発により炭酸カルシウムが沈澱し、つらら状の鍾乳石ができる。 あるいはそこで過飽和状態がつくられて、落下の衝撃で化学平衡を取り戻すため、落下地点に炭酸カルシウムの沈澱ができる。これが石筍のような構造をつくっているのも観察される。(駒場キャンパスでは、かつて5号館の外側階段に見事なものができていた。)
同じようなものが、鉱山の坑道内で滴下する地下水によってつくられる場合がある。
これはその成分がサンゴの骨格と同じ炭酸カルシウムの霰石
であり、形も似ていることから「山サンゴ 」と呼ばれていた。
温泉と鉱床に密接な関係があるのは前に述べた通りである。わが国最大の金鉱床となっている菱刈鉱山では、いまなお高温の温泉がわきだしている。
特殊な例として、秋田県の玉川温泉では、温泉からの沈澱物が河原の石ころの表面に沈着して成長し続けている。温泉の性質を反映して硫酸塩が沈澱しているのだが、ここから北投石
という鉱物が発見されている。これは台湾の北投温泉で発見されたためにその名があるもので、鉛・バリウムと同時に微量のラジウムを温泉から硫酸塩として沈澱させて含んでいる、放射能鉱物である。
ペグマタイトというのは、主に深成岩中に発達する、周囲よりも大きくしばしば美しい自形を示す結晶が発達する部分の岩石である。 これは、マグマが固結する最終段階で残液や熱水溶液が、すでに固結した部分の隙間や周囲の岩石中に空間を作り、そこで自由に結晶を成長させた結果、形成されたものと考えられている。 マグマの固結の残液であるから、造岩鉱物に入りにくい元素が濃集していて、リチウム・ベリリウム・フッ素などの揮発性元素、を含む鉱物や、希元素鉱物など、 普通の岩石中では見られない珍しい鉱物が大きく成長するので、鉱物学的には重要である。 特に花崗岩のペグマタイトは、一般に良好な鉱物標本を得られる場合が多く、日本でも福島県石川や、茨城県真壁町山の尾、岐阜県中津川市苗木、その他多数の有名な鉱物産地があった。
今回の展示でも、これらの花崗岩ペグマタイトから得られた標本が多数含まれている。 これらはガラス原料の珪石の採掘や、花崗岩の石材の採取の際の副産物として得られたもので、国内のこれらの産業の衰退とともに、近年では採集が困難になっている。